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INTERVIEW 08
AKIYO NOGUCHI
野口啓代
プロフリークライマー

Vol.1スポーツクライミングの魅力

May 26, 2023
スポーツクライミングの魅力

知力・体力・判断力で勝負するといわれる スポーツクライミングの世界。 ソールのお話の前にその魅力を伺いました。

瞬発力、筋力だけではなく、正確性が鍵となる「スピード」、さらには課題ごとに登るための順序や構成、体の使い方を考えて登る「ボルダー」と「リード」。まさに知力、体力、判断力を武器に闘う競技、スポーツクライミング。クライミングとは何か?そして、誰でも楽しめる観戦の見どころ教えてもらいました。
野口啓代さん(以下「野口」と略) シューズに関してはお話をしたことはありますが、ソールに関してのインタビューは初めてです。ちゃんとお答えできるか、緊張しますね。

−− 難しいことをお伺いするつもりはないのですが、スポーツクライミングにとってのシューズの重要性などは少し専門的なお話が伺えればと思います。

野口 考えながら、実体験でしか話せませんが、よろしくお願い申し上げます。

−− よろしくお願い申し上げます。では早速、質問させていただきます。スポーツクライミングの見どころなどを含めてお話いただけますか?

野口 シューズが手元にあったほうが良いですね?(といってシューズをふくろから出してくださった)

−− こんなに履き込むものなのですね。新品のものに比べて差がすごいですね。

野口 使い込んでいるのを持ってきました(笑)。競技としてのスポーツクライミングはみなさんがイメージされている自然の岩を登るというものではありません。人口壁で行われる競技としてのクライミングをスポーツクライミングといいます。今現在の公式種目は3つあります。スピード、ボルダー、リードの3つの種目。私は東京2020オリンピックのためにこの3つの種目をやっていましたが、それまではボルダーとリードの2種目をやってきました。次の2024年のパリ2024オリンピックではフォーマットが変わりました。ひとりの選手が3種目やるのではなく、2種目と1種目になりました。スピードの単種目とリードとボルダーの2種目複合に分かれてメダルをかけて争うようになりました。

−− 得意な種目などでも勝敗が変わってくるものですね。私たちはどこに注目して観ると良いのでしょうか?

野口 スピードクライミングはその名の通りスピードを競います。15mの課題をスタートからゴールまでを何秒で行けるか、というシンプルなものです。スピードだけは常にホールド(人工の壁を登るときの手がかり、足がかりになる突起物のこと)の配置や、壁の形状が決まっています。普段練習しているものとまったく同じものを大会で行ないます。陸上競技みたいな感じですね。スピードは瞬発力であったり、筋力が必要な種目になります。ボルダーとリードは大会のときに初めて見る壁と初めて見るホールド配置のものを、ボルダーならひとつの課題あたり4分間、リードだったらひとつの課題あたり6分間で下から上までどこまでいけるかという競技です。難易度を競います。

−− 競技のスタイルを含めてかなり違ったものに感じますね。スピードは普段からの練習の成果が大会で出るという感じなのでしょうか?

野口 そうですね。自分の持ちタイムであったり、ベストタイムであったりを大会で発揮できるか、というものになります。

−− ボルダーとリードの違いはどんなところなのでしょうか?

野口 ボルダーは高さ4から5mの壁です。下にマットが敷いてある状態で壁を生身で登ります。リードクライミングの場合は15mから18mくらいの高い壁にハーネスを着けてロープを使って、下にはビレイヤーというサポートする人がいます。

−− スピードとは違って、自己研鑽だけではない気がします。

野口 ボルダーとリードは本当にたくさんの練習をして、どんな課題であっても勝てるように準備しています。いろんな壁の傾斜であったり、いろんなホールドの配置を仮定しながら練習していますね。

−− 大会当日にならないとわからないものとなると、その日の壁は苦手とか、これは好きな感じだ、ということはあるのでしょうか?

野口 ありますね。課題相性というのはどこまで強くなってもあるので、相手の選手と競うものではありますが、それ以上に自分がその日の課題を登らないといけないというのが先にきますね。ライバルと闘うというよりも目の前の課題をどう克服してクリアするか、なのです。対人勝負というよりは課題との勝負であり、自分自身との勝負という要素が大きいですね。ボルダーとリードは前の選手の動きを見られません。自分の出番まで選手は隔離されているので、自分で考えて自分で登らないといけないのです。

−− スピード競技も自分のタイムとの闘いですし、かなり精神的にはストイックな競技ですね。

野口 ただ、スピード競技の場合、決勝戦はトーナメント方式になって、基本的に16人で決勝を行なうのですが、1位と16位の選手、2位と15位の選手という具合に競い合うので、スピードのほうが対人競技の要素はあります。

−− 車でいうと「ドラッグレース」みたいなものですね。ボルダーやリードで今日の課題はとても楽だった! ということはあるのでしょうか?

野口 楽だったということはありませんね、トップクラスが競い合うものなので、難易度はもちろん高い。ですが、今日の課題との相性が良くて得意な感じだったということはありますし、自分の調子が良くて、苦手な課題がとても簡単に感じた、ということはありますね。
まずはスポーツクライミングという競技と面白さ、見どころ、魅力を伺いました。一度お話を伺うとスポーツクライミングの見方も変わると思います。
野口啓代(のぐち あきよ)プロフリークライマー

小学5年生の時に家族旅行先のグアムでフリークライミングに出会う。クライミングを初めてわずか1年で全日本ユースを制覇、その後数々の国内外の大会で輝かしい成績を残し、2008年には日本人としてボルダー ワールドカップで初優勝、翌2009年には年間総合優勝、その快挙を2010年、2014年、2015年と4度獲得し、ワールドカップ優勝も通算21勝を数える。 2018年にはコンバインドジャパンカップ、アジア競技大会で金メダル。2019年世界選手権で2位。自身の集大成、そして競技人生の最後の舞台となった東京2020大会では銅メダルを獲得。
2022年5月、自身の活動基盤となるAkiyo's Companyを設立。
今後は自身の経験をもとにクライミングの普及に尽力し、また「Mind Control」(8c+)、「The Mandara」(V12)を凌駕するような外岩の活動も積極的に行う。

Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹