ヴィブラムジャパン設立10年で日本市場が変わったこと、ダビデの足元を支えるヴィブラムも聞いてみました。
ヴィブラムジャパンがスタートして10年を迎えます。その間に変化したこと、そして、これからヴィブラムと日本はどのように新しい関係をつくっていけるのか? という話を伺っているうちにダビデがプライベートでもお使いになるヴィブラムの話まで聞くことができました。
−− 10年前にヴィブラムジャパンができましたが、それ以前の日本へのアプローチ、ジャパン設立以降の日本に対するアプローチの違いをお教えください。また、他国と違うようでしたら、お聞かせください。
ダビデ 10年前のヴィブラムジャパンはコマーシャルオフィスといったほうが良い感じでした。眞田くみ子(現代表)がリーダーとなってセールスをするという感じです。それから新しい人を増やしていって、日本のシューズブランドやアパレルブランドとともに一緒に取り組んできました。よりマーケティングも強化して、ヴィブラムの認知を広げるためにさまざま活動をしていくようになり、日本独自の施策なども取り組んできたのです。
−− 日本以外で特別なアプローチをしている国はありますか? また、日本のようにマーケットが特殊なところがあればお聞かせください。
ダビデ ヨーロッパはアウトドアとスポーツと安全靴のマーケットが盛んです。アメリカも同じです。前編でも触れましたが、中国はアスレジャーの比率が高いですね。ちなみに「アスレジャー」とは「アスレティック」と「レジャー」を掛け合わせた言葉です。韓国は「スポーツ・シティ・アウトドア」というところが売れています。日本はライフスタイルですね。
−− 歴史と伝説のあるヴィブラムはこれからどんなふうに変わっていきますか? 開発面として、テクノロジーの未来、そしてイメージとして、雰囲気やブランディングの未来展望などをお聞かせください。
ダビデ 未来も今のブランドポジショニングと変わらない状態、つまり保持していきたいと思っています。それは進化しないという意味ではなく、逆のことです。エンドユーザーが欲するものを理解しながらデザイン、コンパウンドのクオリティを確保し、イノベーションやテクノロジーに関しては今までと同じ速度で変わり続くけていくことが大事です。だから私たちは進化し続けることを変わらずやり続けていく姿勢は不可欠なのです。テクノロジーも含めてハイレベルなポジショニングを維持していくことがヴィブラムの未来をつくります。具体的に今一番力を入れていることはソールの性能の中でも耐久性を保持しながらも「軽量」という難題を今後も向上させていきます。エンドユーザーからの要望も多くあります。ですが、摩耗を防ぐための耐久性と軽量化というのは本来相反するものなのです。この共存を求められていることも確かなことです。我々はそこをより良くするために開発の手を抜きません。今まで以上にソールにおいてミッドソールの重要性が注目されています。より快適にかつ、より安全に足を守るためにもミッドソールの機能性の高さを求められています。ヴィブラムとしてもミッドソールの開発をより強力に進めています。
−− 先日もスタッフが履いているシューズのソールをヴィブラムに貼り替えにいきましたが、とても格好良いデザインなのに厚くてしかも軽量というヴィブラムを紹介していただき、感動的でさえありました。
ダビデ そう思ってもらえれば、ヴィブラムのポジショニングはみなさんに届いているということなのだとまさに思いますよ。
−− 持っているシューズをヴィブラムのソールに変えるだけで価値が上がります。とはいえ、こうしたリペアやリユースはこれからの時代の再生は大切な課題です。ヴィブラムとしてのアプローチをお聞かせください。
ダビデ ヴィブラムも「リペアシューズプログラム」というプロジェクトを世界中でマーケティングしながら宣伝しています。そのキャッチコピーは「Repair if you care(気になったら貼り替えましょう)」です。ソールを貼り替えることで長く履けるということですね。日本でも展開していますよ!
−− ヴィブラムチューン(リペア)のコツがあれば教えてください。
ダビデ 私は靴を買ったら、すぐにヴィブラムにソールを貼り替えます(笑)。もちろんヴィブラムだったらそのまま履きますが、ヴィブラム以外のソールはすべてヴィブラムに張り替えます。自分のだけでも50足ほどシューズはありますが、家族のシューズもすべてヴィブラムですよ(笑)。
−− ソールを変えることで新しい場所に行けるようになったり、ファッションが楽しくなることはあります。ヴィブラムの役割をお聞かせください。
ダビデ そんな大層なことは私には言えませんが、人々がどこかに行くときにステップが楽しくなると良いですね。創業者が山登りを助けたように、日常では歩くことを助けることができることがヴィブラムの役割です。
−− ヴィブラムも環境問題には積極的にお取り組みされていると思いますが、サスティナブルへのアプローチはどんな風にされていますか?
ダビデ サスティナビリティは世界中のトレンドなので、避けて通るわけにはいきません。その活動の一部でありたいと思います。私たちは今のムーブメントに先駆けて1994年に「エコステップ・リサイクル」という30%がリサイクル素材のコンパウンドをつくりました。ヴィブラム基準のパフォーマンスを維持したままでです。ここ数年では「エコステップ・ナチュラル」というコンパウンドをつくりました。これは90%が自然由来の素材を使っています。
−− エコ素材を使うことでパフォーマンスの維持はできるのでしょうか?
ダビデ ヴィブラムのクオリティはエコ素材においてもハイレベルであることをまずは申し上げたい。特に耐久性が素晴らしいと自負しています。耐久性は性能であると同時に長く履けるわけですからそれ自体がエコであると考えられます。
−− 日頃から足元は見てしまうものですか?
ダビデ もちろんですよ! 靴底もちゃんと見ます。黄色かどうかってね!
−− ダビデさんは以前からヴィブラムには興味があったのでしょうか?
ダビデ ヴィブラムに転職する前は、靴は見た目で買っていました。16年前ヴィブラムに転職してからは靴屋さんでは靴底を見て、ヴィブラムかヴィブラムではないか、さらにはコンパウンドをチェックするというのが靴の見方になりましたね。
−− 日本のスタッフは靴底を目で確認するまでもなく、触るだけでヴィブラムか否かがわかるそうです。
ダビデ Oh! My god! それはすごいね。
−− ここまでもヴィブラムの魅力を語っていただいたのにも関わらず、さらにダビデさんに魅力を語っていただきたいと思います。
ダビデ アウトドアにあまり興味がなかったので、ヴィブラムについてもヴィブラムに入るまではあまり興味を持っていませんでした。私はヘッドハンティングだったので、入社してからいろいろ知るようになったのです。素晴らしいマニファクチャーカンパニーで、良い会社だと思いましたし、ヴィブラムはソールを作る工程が実に多岐にわたっています。やらなければできない工程の中にテクノロジーが隠されていることを初めて知りました。一つ一つのソールに込められているクオリティが素晴らしく、びっくりしましたよ。シンプルなラバーのソールのプロダクトですが、いろんなテクノロジーが詰まっているのです。会社としてもファミリーのような会社でとても快適です。そして、会社自体が自信を持っています。
−− 会社の中はおしゃれなのでしょうか?
ダビデ 私の机は仕事のためにあるだけの何も面白味はないかもしれませんが、デザインチームの机は遊び心が感じられますよ。
−− ダビデさんの足を支えるヴィブラム、好きなコンパウンドやデザインを教えてください。
ダビデ 私が貼り替えたものですか? まずはカラルマートですね。それから「ROCCIA」、革靴にはこれですね(写真参考)。あとは雪の日用には「ARCTIC GRIP」は欠かせませんし、雨の日には「MEGA GRIP」です。トラクションが良いうえグリップが足元を守ってくれます。以前はアウトドアなども興味がなかったのですが、今はスキーやランニング、テニス、パドルテニスなどをやっていますが、ソールはヴィブラムですよ!
ダビデ・カンチャーニ(Davide Canciani)ヴィブラム本社バイスジェネラルマネージャー
Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹