あるときはクリニックの優しい院長先生。またあるときはクライミングのエキスパート。さらに日本では数少ない国際山岳医の顔も持つ。クライミング界でも異彩を放つ竹田遼さんの足元を支えるVibramの存在とは?
−− 医師を志した思ったきっかけは?
竹田 遼さん(以下「竹田」と略す) 祖父と父が地元でクリニックをやっていたので、物心がつく頃には医師になろうと思っていました。周囲からも、竹田くんはおいしゃさんになるんだよね、という風に言われることが多かったので、『将来はそうなるんだろうな』と。
−− どんな子供だったんですか?
竹田 勉強は好きでしたが、スポーツはあまり得意ではありませんでした。足も速くないし、背も低かったので、サッカーやバスケの選手になりたい、と思ったことはありませんでした。ただ、外で体を動かすのは好きで、一輪車や縄跳びとか鉄棒とか、何時間も続けてやっていました。

−− 登山との出会いは?
竹田 私の父は蝶の採集が趣味で、ヒマラヤやインドネシア、マレーシアまで出かけていました。八ヶ岳など国内の山に出かけるときは私も一緒でした。
登山を始めたのは大学生2年生の時、父のボルネオ島での採集に同行したのがきっかけ。9日間のスケジュールだったんですが、その間、ずっと蝶を追いかけているのはさすがにつまらない。そこでひとりでキナバル山(4095ⅿ)の登山に挑戦したんです。
そのときは天気が悪くて山頂まで行くことができませんでしたが、翌年も同行することになり、登頂することができました。
その頃から登山にハマって、ひとりで里山や残雪期の山を登り始めました。大学5年生のときには新潟の山岳会に入って、冬の八ヶ岳にも登りました。
大学生のときに一年間かけてお金を貯めて準備をして、登ったキリマンジャロ(5895m)は一生の思い出です。初めてのアフリカの大冒険で、高山病でえらい目に遭いましたから笑
登山を始めたのは大学生2年生の時、父のボルネオ島での採集に同行したのがきっかけ。9日間のスケジュールだったんですが、その間、ずっと蝶を追いかけているのはさすがにつまらない。そこでひとりでキナバル山(4095ⅿ)の登山に挑戦したんです。
そのときは天気が悪くて山頂まで行くことができませんでしたが、翌年も同行することになり、登頂することができました。
その頃から登山にハマって、ひとりで里山や残雪期の山を登り始めました。大学5年生のときには新潟の山岳会に入って、冬の八ヶ岳にも登りました。
大学生のときに一年間かけてお金を貯めて準備をして、登ったキリマンジャロ(5895m)は一生の思い出です。初めてのアフリカの大冒険で、高山病でえらい目に遭いましたから笑

低酸素で苦しみ、顔も浮腫んでいる
−− クライミングを始めたのもその頃?
竹田 大学4年生の頃です。山野井泰史さんの『垂直の記憶』を読んで、クライミングの技術がないと、登山は先に進めないことがわかったんです。そこで新潟にあったCAMP4というリードジムでトレーニングを始めました。
最初はボルダリングだったんですが、ロープを使って10ⅿ以上の壁を登るルートクライミングを始めてから、一気にハマりました。
半年後には、新発田にある杉滝岩を登って、タイにも行きました。新潟にはクライミングに適した岩があまりないので、東北や群馬に遠征することが多かったです。
最初はボルダリングだったんですが、ロープを使って10ⅿ以上の壁を登るルートクライミングを始めてから、一気にハマりました。
半年後には、新発田にある杉滝岩を登って、タイにも行きました。新潟にはクライミングに適した岩があまりないので、東北や群馬に遠征することが多かったです。

タイのクラビーにてBurnt Offerings 7a+
−− クライミングには、登山と違う楽しさがあるんですか?
竹田 どちらも快感があります。ただ、クライミングの快感は瞬間的にドーパミンがドーッと出る感じ。登れたらめちゃくちゃ楽しいですし、落ちてもまた楽しい。
反対に登山で得られる快感は徐々にジワ~っときて、気持ちがほっこりする感じです。
反対に登山で得られる快感は徐々にジワ~っときて、気持ちがほっこりする感じです。

−− どれくらいの頻度でクライミングをしているんですか?
竹田 今は地元の小金井市でクリニックの院長を務めているので、ほとんど自分の時間がありません。
それでも週3回はクライミングのための時間は確保するようにしていて、そのうち、1日は山へ行くようにしています。
ホームは秩父の奥にある二子山で、片道2時間半ほどかけて通っています。どうしても時間がとれないときは、自宅の壁につけたフィンガーボードを使って練習しています。
それでも週3回はクライミングのための時間は確保するようにしていて、そのうち、1日は山へ行くようにしています。
ホームは秩父の奥にある二子山で、片道2時間半ほどかけて通っています。どうしても時間がとれないときは、自宅の壁につけたフィンガーボードを使って練習しています。

埼玉県小鹿野町の二子山の任侠道8aの核心部
photographer:鈴木岳美
−− 国際山岳医の資格を取得したのも登山の影響ですか?
竹田 登山やクライミングにどっぷりハマっていた大学4年生の時に、雑誌を読んでいたら、国際山岳医が取り上げられていたんです。登山者の海外遠征にチームドクターとして帯同できるなんて、ワクワクするな、と思って。
それから登山医学界の会合に出席するようになって、先輩の医師からどんな科を選べばいいかアドバイスをいただきました。
すると、全身を総合的に診ることができる科がいいとのことだったので、救急科を専攻することにしました。
それから登山医学界の会合に出席するようになって、先輩の医師からどんな科を選べばいいかアドバイスをいただきました。
すると、全身を総合的に診ることができる科がいいとのことだったので、救急科を専攻することにしました。

−− 国際山岳医とはどんな医師ですか?
竹田 山では高山病や低体温症、転落・転倒など特有の病気やけがが発生します。検査や治療に使える機器も限られている中で、できるかぎりの処置をする必要があります。こうした山で起こる病気やけがを対象とした専門的な知識や技術を身につけているのが山岳医で、そのうち、国際的規格に準拠した資格が国際山岳医です。
私は初期研修医の時点で、この資格を所得しました。
また、山岳医の活動にも役立つだろうと思い、初期研修後、高度救命救急センターと高度外傷センターに勤務して、救急専門医の資格を取得しました。
私は初期研修医の時点で、この資格を所得しました。
また、山岳医の活動にも役立つだろうと思い、初期研修後、高度救命救急センターと高度外傷センターに勤務して、救急専門医の資格を取得しました。

救命センターではドクターカー業務にも従事
−− クライミングでも山岳医の知識や経験は役立っていますか?
竹田 普段はケガの応急処置などがあります。
特に医療機器を持っているわけではないんですが、医師がいることでメンバーに安心感を与えられますし、健康状態やクライミングを続けていいかどうかの見極めができます。
それにクライミングによる外傷に詳しい医師は非常に少ないので、ちょっとしたケガや障害でも山岳医特有の知識や経験は役立ちます。
特に医療機器を持っているわけではないんですが、医師がいることでメンバーに安心感を与えられますし、健康状態やクライミングを続けていいかどうかの見極めができます。
それにクライミングによる外傷に詳しい医師は非常に少ないので、ちょっとしたケガや障害でも山岳医特有の知識や経験は役立ちます。
−− クライミングで培われた精神力や体力が、本業である医療に役立つことありますか?
竹田 これはとても関係していて、医者の仕事は頭脳労働でありながら、休み無しに24時間勤務をするような肉体労働の側面もあります。登山、クライミングで培った体力は間違いなく医業にも繋がっています。
その逆もまた然りです。救急医は緊急対応のスペシャリストで、自分がなんとかしないと患者の命を救えない、という場面に日常的にさらされてきました。一瞬のミスも許されない土壇場でも冷静に、抜け漏らしなく確実に実行するメンタルが必要です。クライミングも命が係わるシーンもあり、しばしば絶対にミスしてはいけない瞬間が訪れますが、そういった時の冷静さは医者としての業務から学んだ側面もあるかもしれません。
その逆もまた然りです。救急医は緊急対応のスペシャリストで、自分がなんとかしないと患者の命を救えない、という場面に日常的にさらされてきました。一瞬のミスも許されない土壇場でも冷静に、抜け漏らしなく確実に実行するメンタルが必要です。クライミングも命が係わるシーンもあり、しばしば絶対にミスしてはいけない瞬間が訪れますが、そういった時の冷静さは医者としての業務から学んだ側面もあるかもしれません。

ブラジルにてCocoon 8a+ とてつもない傾斜のライン
−− クライミングに使う道具にこだわりはありますか?
竹田 やはり靴ですね。
フリークライミングは、自分の力で登るというのが基本コンセプトですが、チョークをつけることと、クライミングシューズを履くことだけは許されているんです。だから、他の競技よりもシューズの性能がパフォーマンスに大きく影響します。
フリークライミングは、自分の力で登るというのが基本コンセプトですが、チョークをつけることと、クライミングシューズを履くことだけは許されているんです。だから、他の競技よりもシューズの性能がパフォーマンスに大きく影響します。
−− 愛用のクライミングシューズを持ってきていただきましたが、けっこうありますね。
竹田 外の岩を登ると、ソールがすぐにすり減ってしまうため、リソールを繰り返す必要があります。すると、その間に履く靴を用意しておかなければならないので、数が必要なんです。
ジム用と外岩用で使い分けていて、それぞれ同じ靴を2~3足ずつ揃えています。
ジム用と外岩用で使い分けていて、それぞれ同じ靴を2~3足ずつ揃えています。
−− スカルパとスポルティバがお好きなんですか?
クライミングを始めた頃、お店ですすめられたのがスカルパでした。それから長らくスカルパを履いていたんですが、最近はスポルティバが多いです。足の形に合っている気がしますし、イエローとブラックの配色も好きですね。
ただ、どっちの性能が優れているというよりも、自分のルートに合うシューズを選んでいたら、自然にスポルティバが多くなりました。
ただ、どっちの性能が優れているというよりも、自分のルートに合うシューズを選んでいたら、自然にスポルティバが多くなりました。

アウトドアクライミングに欠かせないアプローチシューズ
photographer : 鈴木岳美
−− 靴を選ぶ際は何を重視しますか?
竹田 クライミングでは“不意落ち”といって、足が突然滑って抜けて、ホールドしている手に急に荷重がかかって指や前腕を傷める、というケースが多い。要するに足が滑ることがおもな原因になるんです。
となると、一番重要なのはソールのグリップ力になります。
となると、一番重要なのはソールのグリップ力になります。

埼玉県小鹿野町の二子山の任侠道8aを登る
photographer: 鈴木岳美
−− どんなソールがいいですか?
竹田 やはりヴィブラムです。今まで履いてきたスカルパとスポルティバはイタリアを代表する登山靴メーカーです。この2大ブランドがヴィブラムをメインに使っているので、クライミングシューズのソールといえば、このブランドです。
他のブランドのシューズも履いたことはありますが、ソールはグリップ力も耐摩耗性も、ヴィブラムに軍配が上がります。
また、ラバー製のソールは気温の影響を強く受け、高いと柔らかくなって、低いと硬くなる性質があります。だから、気温に左右されにくいグリップの安定性も重要です。その点でも、ラバーの品質やコンパウンドにこだわるヴィブラムの信頼度は高いですね。
他のブランドのシューズも履いたことはありますが、ソールはグリップ力も耐摩耗性も、ヴィブラムに軍配が上がります。
また、ラバー製のソールは気温の影響を強く受け、高いと柔らかくなって、低いと硬くなる性質があります。だから、気温に左右されにくいグリップの安定性も重要です。その点でも、ラバーの品質やコンパウンドにこだわるヴィブラムの信頼度は高いですね。

−− よく履くクライミングシューズについて教えてください。
竹田 ジム用だと「ソリューションコンプ」です。Vibram XS GRIP 2というコンパウンドなんですが、トップクラスのグリップ力をそなえながらも、ほどよい柔らかさもあって、ジムにぴったり。
外岩だと「ソリューション」(写真左)をよく使います。コンパウンドは同じVibram XS GRIP 2ですが、こちらの方が岩の粒に乗るときによりサポート力を感じます。
岩の割れ目を使って登っていくクラッククライミングの場合は、硬くて歪みにくいVibram XS EDGEが搭載された「TCプロ」(写真中央)を使います。
Vibram XS EDGEといえば、フリクション(摩擦)がきく花崗岩を登るときに細かい粒を捉えやすい「カタナレース」(写真右)がいい。
岩の質や傾斜によって使い分けるので、何足か持っていきますが、もし、一足に絞るなら「ソリューション」です。ほとんどの外岩に対応できる万能シューズで、これまで8足ほど使ってきました。
外岩だと「ソリューション」(写真左)をよく使います。コンパウンドは同じVibram XS GRIP 2ですが、こちらの方が岩の粒に乗るときによりサポート力を感じます。
岩の割れ目を使って登っていくクラッククライミングの場合は、硬くて歪みにくいVibram XS EDGEが搭載された「TCプロ」(写真中央)を使います。
Vibram XS EDGEといえば、フリクション(摩擦)がきく花崗岩を登るときに細かい粒を捉えやすい「カタナレース」(写真右)がいい。
岩の質や傾斜によって使い分けるので、何足か持っていきますが、もし、一足に絞るなら「ソリューション」です。ほとんどの外岩に対応できる万能シューズで、これまで8足ほど使ってきました。

−− クライミングのスタイルでこだわりはありますか?
竹田 誰かが登っているのを見ることなく、1回のトライで完登することをオンサイトや一撃といって、私はこのスタイルにこだわりがあります。
クライマーの中には同じルートを100、200回と登り続けて完登するスタイルの人もいますが、私は「世界中の美しいルートをできるだけ多く登る」というのを信念に抱えています。それに熱しやすく飽きっぽい性格なので、できれば少ないトライ、日数で登りたい。
1、2回のトライで効率よく得た情報やノウハウを次のチャレンジに最大限に生かす能力には自信があります。
私はこの自分の強みを「短撃力(たんげきりょく)」と呼んでいます。少ないトライで、なら少撃力なのですが、もう少し幅広い時間軸で「短期間で」というニュアンスを込めて短撃力ということにしました。
そういうスタイルなので、岩を登る前には、どのシューズがベストかをしっかり見極めます。
クライマーの中には同じルートを100、200回と登り続けて完登するスタイルの人もいますが、私は「世界中の美しいルートをできるだけ多く登る」というのを信念に抱えています。それに熱しやすく飽きっぽい性格なので、できれば少ないトライ、日数で登りたい。
1、2回のトライで効率よく得た情報やノウハウを次のチャレンジに最大限に生かす能力には自信があります。
私はこの自分の強みを「短撃力(たんげきりょく)」と呼んでいます。少ないトライで、なら少撃力なのですが、もう少し幅広い時間軸で「短期間で」というニュアンスを込めて短撃力ということにしました。
そういうスタイルなので、岩を登る前には、どのシューズがベストかをしっかり見極めます。
−− 多忙な毎日を過ごされていますが、今後の目標を教えてください。
竹田 クライミングには、どのくらい難しいルート(課題)なのか、難易度を表すためのグレードという指標が設定されています。
リードクライミングの5.14(ファイブフォーティーン)が私の限界値なので、今後はこのグレードのルートに挑戦して、レベルを上げていきたい。
ただ、数字に挑戦する一方で、純粋に楽しみたいという気持ちも強くなっています。
最近は、簡単なルートで、岩のフリクションを感じるだけでもワクワクするんです。
クライミングを10年間してきて、ドーパミン的快楽以外の魅力もより感じられるようになってきました。最近は自然の環境にいること、コミュニティに所属していることなどによってとても幸せを感じています。
去年は1年間仕事を休んで、クライミング留学に行ってきました。
スペインやアメリカ、ブラジル、タイなどを旅しながら、現地の岩を登っていたんです。
スイスでは念願だったアイガーの登頂にも成功しました。これがそのとき履いていたシューズです。
リードクライミングの5.14(ファイブフォーティーン)が私の限界値なので、今後はこのグレードのルートに挑戦して、レベルを上げていきたい。
ただ、数字に挑戦する一方で、純粋に楽しみたいという気持ちも強くなっています。
最近は、簡単なルートで、岩のフリクションを感じるだけでもワクワクするんです。
クライミングを10年間してきて、ドーパミン的快楽以外の魅力もより感じられるようになってきました。最近は自然の環境にいること、コミュニティに所属していることなどによってとても幸せを感じています。
去年は1年間仕事を休んで、クライミング留学に行ってきました。
スペインやアメリカ、ブラジル、タイなどを旅しながら、現地の岩を登っていたんです。
スイスでは念願だったアイガーの登頂にも成功しました。これがそのとき履いていたシューズです。


竹田 私の目標はライフスタイルとしてクライミングをずっと楽しみ続けること。
そのためにも、足元の安全を確保するヴィブラムは欠かせない存在です。
そのためにも、足元の安全を確保するヴィブラムは欠かせない存在です。

ブラジルにてSuper Heróis 8a+ 55mのロングライン
竹田遼医師・クライマー
1989年生まれ。新潟大学医学部医学科卒業後、聖隷横浜病院初期研修医を経て、さいたま赤十字病院救急部に勤務。2023年に父が開いた地元・小金井市の竹田内科クリニック(現:小金井 竹田内科・小児科・在宅クリニック)に勤務し、翌年院長に就任。専門は救急科、登山医学など。小金井市医師会 社会福祉担当理事、日本救急医学会救急科専門医、Diploma in Mountain Medicine(国際山岳医)、日本スポーツ協会認定スポーツドクター、日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)SC医科学委員会委員長などさまざまな資格や肩書を持つ。
【山行歴】
海外登山:キリマンジャロ、マッターホルン、アイガー、キナバル
フリークライミング:爛熟 8b+、あきらめるな8b+
Text by 押条良太(押条事務所)
Photo by 前田一樹