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INTERVIEW 21
YOICHI MAEDA
前田洋一
chausser(ショセ) デザイナー

Vol.1ヴィブラムとともに、靴作りの道を歩んできた

Jun 25, 2025
ヴィブラムとともに、靴作りの道を歩んできた

東京・恵比寿を拠点とし、25年以上にわたり“愛着の持てる靴作り”を続ける「ショセ」。そのデザイナーを務める前田洋一さんに話を聞きました。靴業界でのキャリアのスタート、ショセの立ち上げの経緯、昨年登場した新ライン「アクティブ」の特徴……。もちろんヴィブラムについても、思い出とともにそのエピソードを語ってくれました。

−− ショセを設立する以前のキャリアを教えていただけますか。

前田洋一さん(以下「前田」と略す) 高校を卒業し上京して、アメリカ屋靴店(当時)に入社しました。最初は渋谷の、道玄坂の店に勤めて。今、「109」の目の前にエクセルシオールカフェがあるんですが、そこがアメリカ屋の店舗だったんです。

そこに5年。次に銀座の店に2年。そのあと本社の商品部に異動しました。販売からスタートして、仕入れ、オリジナル商品の企画、MDなど……靴業界の基本を勉強させてもらった、という感じです。

−− 当時(1980年代中頃〜90年代中頃)の靴業界においても、ヴィブラムのソールは有名な存在だったんでしょうか。

前田 もちろんです。当時私が企画したシューズにも、ヴィブラムのソールを使いました。ヴィブラム「ガムライト」というソールをよく使っていましたね。レザーのアッパーに履かせて。

当時から海外のソールメーカーはいくつか入っていたのですが、機能性の高さという点で、ヴィブラムは一歩抜きん出ていたという印象です。アメリカ屋靴店には結局、12年ほどお世話になりましたね。

−− その後、靴デザイナーとして独立していくまでの経緯は?

前田 アメリカ屋靴店を退職後、靴の企画会社に2年ほど在籍していました。当時、ある商社のブランドを任されていたんです。そのとき作ったバルカナイズ製法(熱と圧力をかけてアッパーとゴムのソールを接着する製法)のスニーカーがあって……個人的には素晴らし出来だと思って展示会に出したんです。

でも価格が高すぎると言われて、結局落ちて(生産および販売にいたらないこと)しまったんです。どの業界でもよくあることで、仕方のないこと。でもそのスニーカーだけは、どこかで世に出したいという思いがありました。

その後たまたま縁があって、そのスニーカーを含めた3型を展示会に出展することができたんです。それが個人として初めてのブランド、「YOH#81」。このブランドを2年ほど続けたあと、いよいよレディスの靴を作ろうと思い。2000年にショセをスタートしました。

−− ショセでは、どんな靴を作ろうと考えていたのでしょうか。

前田 初めてのコレクションで作ったのが、この編み上げのウィングチップのブーツです。グッドイヤーウェルト製法で作りました。ショセのコンセプトは「愛着を持って長く履ける靴」。やはり丈夫な製法がいいですし、独自の色が出せると思いました。当時、レディスでグッドイヤーの靴というのは、ほとんど見かけませんでしたから。
デザインのイメージは、アメリカ人画家のノーマン・ロックウェルが描いた靴です。履き込んだ雰囲気がすごくリアルに出てますよね。ショセで最初に作ったこのブーツは、まさにそんなイメージなんです。

立ち上げ当初の商品はメンズが3、4型。レディスも同じくらいでした。毎シーズン新しい型を12、3型出しますので……現在は相当な数のモデルが揃っています。

−− そのほとんどが日本製と聞いています。

前田 バルカナイズ製法のスニーカーだけが台湾製ですが、そのほかはすべて国産です。うちは製法で工場を分けているんです。グッドイヤーウェルトは秋田の工場、華奢なデザインものやヒールものは浅草の工場、というように。

実は、ヨーロッパのお客様向けにイタリアの工場で生産していた時期もありました。しかしながら現在はヨーロッパ向けも日本国内向けも、日本製に統一しています。日本のトップレベルの工場のいくつかは、間違いなく世界に通用する技術を持っていますから。

−− これまで、ショセではどんなヴィブラムのソールを使ってきたのでしょうか。

前田 「ムカバ」というコレクションのシューズには、ヴィブラムの「7175」というソールを使わせてもらっていました。もちろん今も、多くのモデルにヴィブラムのソールを使っています。

もちろんヴィブラム以外にもソールメーカーはあります。でも、タウンユースから登山靴まで、あらゆるシチュエーションに合わせて細かく製品をラインナップしているメーカーって、ヴィブラム以外にないんですよね。機能を第一に考えると、ヴィブラムに行き着くというか。

−− 長きにわたるお付き合いのなかで、別注したソールもあるそうですね。

前田 2017年にスタートした「トラベルシューズ」というコレクションで、オリジナルのソールを作ってもらいました。クッション性とグリップ性に優れたヴィブラム「アイストレック」を採用し、デザインは世界地図をモチーフにし、旅行というテーマを表現したいと思いまして。
「アイストレック」は氷点下まで温度が下がっても、固くならないという性質もあります。寒い国に行ったときも安心なんですよ。お客さまの反応も非常に良くて、「スニーカーのように柔らかくて履きやすい」と評判です。

この「トラベルシューズ」は靴箱ではなく、エアチケットをイメージしたシューズバッグでお客さまにお渡ししています。ヴィブラムで別注したソールのデザインも含めて、ちょっとした遊び心を届けられたらな、と思っているんです。

−− そしてこの春、「トラベルシューズ」コレクションに、新作の「アクティブ」が登場しました。

前田 これまでの「トラベルシューズ」は街での着用を前提としていました。でもこの「アクティブ」は、もう少し行動範囲を広げたイメージ。山の中とまではいいませんが、郊外でのちょっとしたハイキングならこの靴でOK、みたいな感じです。

ソールを見てください。トラクションラグっていう細かいギザギザが刻まれています。砂利や湿った土でもしっかりとグリップしてくれる。このソールもうちで少しデザインを変えて、別注したものなんです。

−− 前田さんの靴作りにおいて、ヴィブラムのソールが大事な役割を果たしていることがわかりました。逆に個人としては、ヴィブラムにどんな思いがあるのでしょうか。

前田 今日履いているのは自分用に作った靴なんですが、ヴィブラム「ヴィライト」を装着しています。こういうグッドイヤーのゴツい靴に、とてもよく合うソールですよね。
これほどの厚さにもかかわらず、クッション性があって、返りが良くて、優しい履き心地というのは素晴らしいですね。それにソールが分厚いと……かさ増しできるじゃないですか。つまりちょっと背が高くなる。そこもうれしいですよね(笑)。

−− 今後の靴作りの展望をぜひ教えてください。

前田 ブランドの立ち上げ当初から続けているトラッドをベースにしたもの作りは、今後も変わらず続けていきたいです。併せて、今回紹介した「アクティブ」のような時代を反映した靴、機能を重視した靴も、より強化する必要性を感じています。
革靴離れといわれて久しいですが、実はここ最近、若いお客さまが増えてきているんですよ。ファッションとして人と違うもの身につけたい。そういう気持ちを持つ人は、いつの時代も一定数いるものなんですよね。そんな若い人たちにも、「愛着を持って長く履ける靴」を提示していきたいと思っています。
【ショップデータ】
plus by chausser(プリュス バイ ショセ)
tel. 03-3716-2983
東京都渋谷区恵比寿南1-16-5
タチムラビルディングサウス1F
12:00〜19:00
日曜定休
chausser le coin(ショセ ル コワン)
tel. 03-5734-1633
東京都渋谷区恵比寿南2-20-1
只木ビル1F
12:00〜19:00
日曜定休
前田洋一chausser(ショセ) デザイナー

1966年、宮崎県日南市生まれ。父はオーダーメイドの靴職人であり、実家に隣接した店舗も経営していた。高校卒業後、アメリカ屋靴店に12年、靴の企画会社に2年在籍したのち独立。2000年にショセを設立。現在は恵比寿に「プリュス バイ ショセ」(レディス)、「ショセ ル コワン」(メンズ)の2店舗を構え、全国約60のリテーラーに商品を卸している。
(ブランドサイト)https://chausser.net/
(オンラインストア)https://chausser-shop.net/

Text by 加瀬友重
Photo by 前田一樹