鈴木さんが収集するのは山で出会った風景や物である。それらをフィルムカメラで撮影して持ち帰る。そんな独創的な活動を文字通り足元から支えるのがヴィブラムのアウトソールだ。
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鈴木さんが写真展を開催していた三浦半島のアートギャラリーgallery nagu 凪でお話を伺った。
−− 鈴木さんは「山岳収集家」という肩書で活動してらっしゃいますが、それはどういったものなのでしょうか?
鈴木優香さん(以下 鈴木) 山を歩くなかで自分が美しいなと思ったシーンや被写体を写真に収め、それをもとに物づくりや執筆を行っています。山で撮影した景色からハンカチを仕立てることで自身の山行記録を残す「MOUNTAIN COLLECTOR」というプロジェクトもその一環です。
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−− 写真家のように写真撮影を目的にするのではなく、山で出会ったシーンを収集するための手段として写真を撮影されるということですね。山に登るようになったきっかけを教えてください。
鈴木 学生時代はプロダクトデザインを学んでいたのですが、所属する研究室で毎年「山ゼミ」というものがありました。山小屋に泊まってデザインについて語り合うという不思議なゼミだったのですが、その合宿を通じて自然の中で過ごす時間の気持ち良さや山の清涼な空気などに触れ、登山にも興味を持つようになりました。大学院を卒業してアウトドアメーカーに就職してからは、より本格的に山へ登るようになりました。現在は月に2~3回の頻度で登山やトレッキングを行っています。
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−− ヴィブラムという存在を意識したのはいつ頃からでしょうか?
鈴木 本格的に登山をはじめてから現在まで、すでに5足の登山靴を購入していますが、いずれもアウトソールはヴィブラム製でした。購入するときにはっきり意識していた訳ではないのですが、まだ初心者だったころからソールにヴィブラムのマークがあると信頼できる製品というイメージを持っていました。
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−− アウトドアメーカーではデザインや商品企画をご担当されていたとお聞きしました。やはり靴選びにはこだわりがあるのでしょうか。
鈴木 私はクライミングのようなハードな登山をすることは少ないため、そこまでシビアな感じではないです。重視しているのは、どんな地形でもしっかりグリップして安定して歩けること。長く使えること。そして履き続けていてもストレスを感じないことです。足がわずかでも痛かったり違和感を感じたりすると気が散って撮影に集中できなくなってしまうこともあるので、気持ちよく歩けるというのはとくに大事な要素です。
じつは山登りを初めて間もない頃に靴選びで大きな失敗をしたことがあるんですよ。
じつは山登りを初めて間もない頃に靴選びで大きな失敗をしたことがあるんですよ。
−− どんな失敗ですか?
鈴木 学生時代に初めて富士山へ登ることになったんです。でも、その頃はまだ靴選びの大切さが分かっていなくて、前日に見た目が気に入ったという理由だけで購入してしまったんです。実際に歩いてみると足に対して靴が細すぎたようでつま先が痛くなってしまって。足に合っていない靴だと山歩きが楽しくないばかりか、危ないということをそのときに痛感しました。
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−− 鈴木さんの作品はどれも撮る人間の視点や主観みたいなものを強く感じますね。ご自身の体調が作品に影響することもありますか?
鈴木 そうですね。依頼を受けて撮影することは少なく、ほとんどが自発的な撮影なので、極端に疲労していたり、体の調子が悪かったりすると思うように撮れなくなってしまうこともあります。こういうシーンが現れたらシャッターを切るというような明確な定義は無いのですが、いわゆる山岳写真らしい景色だけではなく、足元にある石や、山の中で食べたものなどもよく撮影します。(展示している写真を指差しながら)これはトレッキングの荷物を運んでくれたロバとその世話をしているポーターです。こんなふうに目の前にあるものや出来事を一つ一つ丁寧に記録して、自分の中に積み重ねていきたいという気持ちで写真を撮っています。
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−− 今回の写真展ではパキスタンへ行かれたときの作品が展示されているんですよね。
鈴木 はい。以前からヒマラヤの8000m峰に対する憧れがあり、これまでも何度かネパールに行ってエベレストやアンナプルナなどを見てきました。縁あって2022年の夏にK2(8611m)のベースキャンプまで歩くことができたので、今回はその山行の写真を展示しています。ベースキャンプでも標高は5000mちょっとあるので高度順応には苦労しましたね。私はもともと高所に弱い体質で、そのときは頭痛と眠気で朦朧としながら歩いていたため感動する気力さえ無かったのですが、今回の写真展のために写真を大きく引き伸ばしたらその雄大な景色に改めて心が震えました。
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−− こちらが実際に現地を歩いた靴なんですね。いかがでしたか?
鈴木 これは1年半前ごろに購入したものです。前述のような失敗を繰り返さないよう、何度か国内の山で慣らしてから本番に望んでいます(笑)パキスタンでは岩場のほかに氷河が露出した滑りやすい場所も多く歩きましたが、ぐっと力を入れて踏み込んでもしっかり地面を掴んでくれるので安心して歩き続けることができました。
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−− これから山岳収集家として益々ご活躍されると思いますが、今後行ってみたい山があれば教えてください
鈴木 中央アジアですね。キルギスの山に興味があります。
−− ヨーロッパのアルプスにはあまり興味がないですか?
鈴木 もちろん興味はありますが、今はアジア方面が気になっています。ヨーロッパだと街の人々の生活様式や服装などが私たちとそれほど大きく違わないと思いますが、中央アジアでは人々が民族衣装を纏っていたり、より非日常的な世界を垣間見ることができるからです。
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−− ぜひ、これからも鈴木さんならではの視点で山の魅力を発信してください。ありがとうございました。
鈴木さんが山で収集する風景は、その時、その場所、その気候、その気分、そのコンディションでしか撮れないかけがえのないもの。シャッターを切ると、鈴木さんの周囲にあるすべてが35ミリのフィルムに焼き付けられる。ヴィブラムのアウトソールもそんな鈴木さんの作品を構成する要素の一部なのである。
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鈴木優香(すずき ゆか)山岳収集家
東京芸術大学大学院修了後、アウトドアメーカーでデザイナーとして勤務。独立後、2016年より山で見た景色をハンカチに仕立ててゆくプロジェクト「MOUNTAIN COLLECTOR」をスタート。現在は国内外の山を巡りながら、写真やデザイン、執筆などを通して表現活動を続けている。
Instagram:https://www.instagram.com/mountaincollector/
Text by 佐藤 旅宇
Photo by 高柳 健