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INTERVIEW 12
Caravan
キャラバン

Vol.1登山機能の日常靴CRV登場

Dec 11, 2023
登山機能の日常靴CRV登場

日本の登山を支えてきた「キャラバン」から誕生したニューカテゴリー「CRV」は登山ができるタウンシューズ。登山靴を街履きにするのではない、発想の転換!

お話を伺った3人。右から佐藤類さん、佐々木晶規さん、松﨑敦郎さん。

日本のアウトドアシーンの中で老舗である「キャラバン」。今回はキヤラバンの歴史を伺い、伝統ある歴史の中で生まれた新カテゴリー「CRV」の開発チームにブランドへの想いを聞いてきました。

−− 「キャラバン」は日本の登山シーンをいち早く支えてきた老舗ブランドだと思っています。登山が好きな方やトレッキングなどをされる方はご存知だと思いますが、まずは「キャラバン」の沿革からお聞かせください。

佐藤類さん(以下「佐藤」と略す)​ 山シューズ専門会社ですので、山関係の専門誌以外からの取材というのも初めてで(笑)。
佐々木晶規さん(以下「佐々木」と略す) 創業者の故・佐藤久一朗氏が1954年に株式会社山晴社を創業し、トレッキングシューズをつくり始めました。それが日本のトレッキングシューズの始まりでもありました。1971年に社名を株式会社キャラバンに変更し、来年の2024年に、創業70周年を迎えます。

−− すごい歴史ですね。このサイトの取材の中でアウトドアをメインにシューズの修理をする「ナカダ商会」に伺ったのですが、そのときも海外のアウトドアシューズの中に混ざってキャラバンのシューズがたくさん修理に出されていて、人気がある日本のブランドだと感じました。

佐藤 弊社は来年70周年を迎えるのですが、「キャラバン」の日本での認知が広がったきっかけは「マナスル(ネパール・ヒマラヤ、標高8163m、世界8番目の高さ)」の遠征隊がベースキャンプまでのアプローチに履いたシューズ。それがキャラバンシューズの原点でした。そこから「キャラバン」が始まります。マナスルは当時未踏峰で、日本隊が初登頂でした。

−− そのときから70年ということですか?

佐々木 登頂は70年ちょっと前です。先に靴をつくり始めてそのあとで会社をつくろうとなったようです。当時、日本の登山靴は鋲を打ち込んだ重量のあるレザーブーツしかなく、それで山登りをしていたそうですね。そこで久一朗さんは自分たちでつくろうよ、と思ったそうです。シューズをつくるなら会社にしようとしたという流れですね。想像するに日本人が靴を履き始めたのは明治維新以降ですから、120年か130年なのだと思います。そんな国に山登りの靴などなかったわけです。日本にないならトレッキングシューズをつくろう、となったのでしょうね。

巣鴨の「キャラバン」直営店に飾ってある、キャラバンのファーストモデル。

松﨑敦郎さん(以下「松﨑」と略す) 靴だけではなく、ザックなどもつくっていたようです。自分でつくるクラフトマンシップの精神があったのだと思いますね。

−− 日本の本格的な登山の黎明期の一番面白いところを全部やってしまったのですね。

佐々木 お店には現物を飾ってあるのですが、最初の登山靴を見ると、本当にこのシューズで登っていたの?」って思いますよね。現代ではテクノロジー、美しさも含めて、どんどん進化してきているので、当時のシューズと現代のシューズを見比べるとそう思う人が大半ではないでしょうか。

−− そのときのソールはどんなものだったのですか?

佐々木 ラバーは藤倉ゴム工業(以下「藤倉」と略)でつくられたものですね。当時のキャラバンシューズは藤倉の技術開発、先人たちの情熱が連携されてつくられていたんです。
松﨑 現在も弊社のオリジナルソールもありますが、靴の進化の上でヴィブラムの培ってきたノウハウやコンパウンドレシピなどはとてもリスペクトしています。山登りも時代に合わせて変化して、そこに合わせてカスタマイズできるという意味でもお付き合いの幅を広げています。

−− 昔の登山靴は足首のホールドも強く、ソールも硬すぎて街では履けないものでしたが、現在のものは軽量化を含め、靴のホールド感などかなりライトなものでも登山ができるようになっていますよね。

松﨑 靴をつくる側としては選択肢の幅が広がりましたね。今までの硬くて重い靴を否定するわけではありません。足腰の弱い人には必要なスペックですし、重い荷物を持っての登山には不可欠。ですが、軽くて柔らかい靴がいいというユーザーのニーズも大事だと思います。

−− 「キャラバン」ブランドを少し教えていただけますか?

佐藤 会社名は「株式会社キャラバン」です。「キャラバン」は「その一歩を、ささえる。」を企業理念に様々な山に関するカテゴリーをラインナップしています。「Caravan」はハイキング、トレッキングシューズをはじめ、登山に必要なウエアやグローブやソックス、デイパックやハットなどのアクセサリーをオリジナルでつくっているカテゴリーです。登山のスタイルも多様化する中でハイスペックな登山靴のカテゴリーとして、1981年に「GRANDKING」をスタートさせました。ステップアップを目指す登山愛好家のためのカテゴリーです。2022年にはフィールドの可能性を広げるコレクションとして「CRV」を誕生させました。多様化する価値観に合わせたプロダクトで全モデルでヴィブラムを装備し、コンパウンドやラグパターンも多種多様。「SNOW CARAVAN(スノーキャラバン)」も登山の流れを汲んでいます。最適な保温性・防水性を維持しながら、トレッキングシューズ感覚の歩きやすさと雪面・氷上でのグリップ力を備えたシューズが「SNOW CARAVAN」です。登山以外のカテゴリーは「渓流」(沢登り、シャワークライミング)があります。「渓流」ではヴィブラムの「IDROGRIP(イドログリップ)」を採用しています。

−− 「キャラバン」でヴィブラムを使い始めたのはいつごろですか?

佐々木 1984年の「V450」というモデルからだと思います。「GRANDKING」カテゴリーのものでした。日本でもヴィブラムを使ったのは早いほう、もしくは最初だった可能性もありますね。「V450」は当時グッドデザイン賞に選ばれたんですよ。キャラバン創立30年の時でした。

−− 80年台のファッション誌で紹介された、アメリカから輸入されたシューズのソールがヴィブラムだったことを考えても早いですね。

佐藤 キャラバンがヴィブラムの指定代理店のひとつとして輸入をしていたときもありました。弊社の姿勢として自分たちでつくれないものは代理店として輸入していました。シューズも輸入していますが、シューズを自分たちでつくるという姿勢は変わりません。

−− ついアウトドアというと山登り、キャンプといったことに限定しがちですが、トレッキングシューズのスペックは雨の日や雪の日、寒いときに歩くのにも最適だと思います。ですが、分野別にしてこうした本格的なシューズを街で履く人は多くはいません。メディアの世界ではロケにトレッキングシューズを履いているカメラマンやスタイリストも多いのですが、世の中ではごく一部でしかないと思います。「CRV」はそんな流れの中で生まれたブランドということでしょうか?

佐藤 時代に合った格好良いものが欲しいと思ったことがスタートですね。山でしか履けないものしかない、実用性はあるけれど、今のニーズとマッチしているのか? ということを考えいきました。「Caravan」と「GRANDKING」という登山靴のブランドがありますが、そことは性質の違うカテゴリーにして、普段でも履けて格好良いものをつくること、それが「CRV」です。22年の6月にリリースしました。大きな意味では「ドアを開けたらアウトドア」ということです。

「Free」シリーズは全3型。上から時計回りに「Free Trek Hi」「Free Climb」「Free Trek」。

「Free」シリーズのアウトソール。左「Free Climb」、中央「Free Trek」、右「Free Trek Hi」。

−− ドアを開けたらアウトドア、良い言葉ですね。

松﨑 そこを実現するために、ヴィブラムにこだわったともいえます。ラストやアッパー仕様、デザインもそうですが、「CRV」のコンセプトが固まったときにシューズの目的によってソール意匠やコンパウンドを変えたい、という思いがありました。岩に強い、雨に強い、凍結した地面に強いなど目的ごとの形状とコンパウンドがある。メガグリップ、XS TREK、アークティックグリップといったコンパウンドの選択肢の多さ、ブロック意匠のソールのラグ(=凹凸した突起)のデザインの多さはものすごい魅力です。登山靴メーカーとして、ヴィブラムの信頼度があるから「CRV」はただのシューズじゃない、アウトドアブランドがつくっていると認知されます。靴としてのアイコンになるのがヴィブラムのロゴ。「CRV」には欠かせないものとしてヴィブラムを起用しています。

−− ひと目でアウトドアのブランドであることがわかりますよね。アウトドアとして登山までの最高スペックはなくても、山登りのスペックの中で街を歩くのに最大限のパフォーマンスを発揮することは一目瞭然ですからね。

佐々木 登山もできるスペックはあるけれど、オーバースペックにならず「今から遊びに行こうぜ!」というときや通勤で履けるだけの機能があれば良い。防水は必要か? 必要なら加えれば良いってだけです。「CRV」には防水仕様もあるし、そうでないものもあります。それが。多様化する価値観に合わせたプロダクトということなのです。

「Cross」シリーズは全3型。右上は唯一のアークティックグリップA.T.を採用した「Cross Chukka」。下「Cross Way」。左「Cross Gen」。

「Cross」シリーズのアウトソール。三種三様の特徴的なデザイン。左「Cross Gen」中央「Cross Way」右「Cross Chukka」。「Cross Chukka」は「アークティックグリップ オルテライン」を採用している。

松﨑 同じヴィブラムの中でも何を使うかが重要なのです。その中で「CRV」は特に歩きやすさを重視してヴィブラムを選んでいます。たとえば「Cross Gen」のソールはトレイルランニング向けに開発したとのことでミッドソールは硬めに設定されてましたが、「Cross」シリーズでは歩行時の突き上げを軽減するために、特別に調整モールドをつくってまでヴィブラムのミッドソールを軽量の柔らかいものにしてもらったという経緯があります。
佐々木 弊社はランニングを専門にしている靴屋ではなく、山道具関連を専門に扱う山靴屋なのです。長い歴史の中で培ったノウハウをどう街に合わせていくか、多様化する価値観に合わせていくか。そこにアウトドアで使える靴にしていくというのが根底にはあるのです。

−− タウンユースに近くできあがっていますね。

松﨑 デザインの面でもいかにタウン向けにしていくかの境界線は考えていきました。防水があっても防水のタグを付けないということもしています。シックなデザインになってくるからです。
佐々木 「Caravan」や「GRANDKING」はあるけれど、自分たちが他社さんに伺うときに履いていける靴があるか? という問いの結論です。ないからつくったというわけです。

−− 「ないからつくる」というのは先ほどの創業者の精神ですよね。

佐々木 品質とデザインが両立して、美しさ、履きやすさ、格好良さがあり、人それぞれの使い勝手によってプロダクトが違う。「CRV」は普段から履いても機能もあるというものづくりです。

−− 社内での評判はいかがですか?

佐藤 最初はキャラバンの主流と違うからという理由で反発もありました。今では社内スタッフの着用率も高く、営業先の場においても、シューズを見て話のネタになったりもしています。
松﨑 登山におけるアプローチシューズは普段履きにつくっているのではないですが、ハイスペックだから普段でも履けると思って街で履いている人は多くいます。「CRV」は逆で、街で履けるハイスペックをコンセプトにデザインしています。

−− ヴィブラムとの共同開発があると聞きました。

松﨑 2024年の春夏で「VITA」というシリーズを発表しますが、そのソールは「スクランブラー」といいます。オートバイのレースの「スクランブラーレース」のイメージもあって、この名になりました。

−− ということは「CRV」は3カテゴリーになるわけですね。

松﨑 「CRV」には「Free」「Cross」があります。そして新しく加わる「Vita」の3つのシリーズになります。「Free」シリーズは軽さにフォーカスしてトレッキングやハイキングまでを想定しています。「Cross」シリーズはライフスタイル寄りのテイストにしながら、キャンプやトレッキングにも使えるものにしています。「Vita」シリーズは「歩く」ことを改めて考えることで基礎体力の向上を裏テーマにして「ゼロドロップ」という新しいラストを提案していて、そこに合わせてヴィブラムのソールを共同で開発してもらいました。

「Vita」シリーズは全2型。右「Vita Amo 」左「Vita Amo GORE-TEX」。

今回ヴィブラムとの共同開発で完成した「Vita」シリーズのソール。

−− 今の話の中で「ゼロドロップ」という言葉がありましたが、それは何ですか?

松﨑 徐々に浸透し始めているもので、シューズの底の高低差をなくすことです。ヒールまではいかなくても、一般的にいまのシューズは高低差があり、自然と歩きやすくしています。その高低差をなくしてフラットにします。普段使っていない筋肉を使うようにさせるのが「ゼロドロップ」です。昔の飛脚は雪駄や草鞋で東京−大阪を3日で歩いたという話も聞きます。でも今は靴に頼っているため、筋力が昔の人より弱っているようです。

−− 「ゼロドロップ」は楽なのでしょうか?

松﨑 体がヒール差のある靴に慣れてしまっていると最初違和感がありますが、慣れると今まで使っていない筋肉を使ったりして、疲れにくくなったりします。
佐々木 推進力を得るために靴のつま先が低くなっています。真っ平の靴底だと自分の脚力を使って歩かなければならなりません。失っていた脚力を取り戻すことができるのです。「CRV」は「Create Real Vital」とシューズのボックスにもメッセージとして載せていますが、足は第2の心臓ともいわれています。「Vita」には「目覚めろ、鼓動を感じて」というテーマがあり、歩くことの大切さを感じてほしい。素足の感覚を呼び戻すことで人間本来のバイタルを呼び戻す。ヴィブラムのファイブフィンガーズも素足感を呼び戻すものですよね。
松﨑 「Cross Chukka」の「アークティックグリップオルテライン」を除いて、「CRV」はすべてメガグリップを使用しています。一番オールマイティで、山でグリップ力を発揮しつつ、街では引っかかるほどのグリップでオーバースペックになりすぎないコンパウンドが「CRV」のコンセプトにマッチしています。
佐藤 ヴィブラムにご協力いただき「Vita」も発表ができました。これからもヴィブラムとタッグを組んで、新シリーズを開発できたらと思っています。

「CRV」のカラーバリエーション。ブラック以外にホワイト、カーキ、グレー、ベージュがあります。モデルによって、カラーバリエーションは異なります。

「キャラバン」という伝統を守りながら進化する「CRV」をつくり上げた3人は同年代という強みを活かしたチーム。

老舗、かつ本格派の登山靴を街履きに落とし込み、本格スペックを普段履きに仕上げる試みをし続ける「CRV」。ファッションシーンにもアプローチをかけられる、新しいブランドだと感じるものでした。
キャラバン

会社名は「株式会社キャラバン」。「その一歩を、ささえる。」を企業理念に様々な山に関するカテゴリーをラインナップ。ハイキングシューズをはじめ、登山に必要なアクセサリーなども揃える「Caravan」。山登りのさらなる高みを目指すための靴「GRANDKING」。NEWカテゴリー「CRV」はヴィブラムソールを装備し、コンパウンドやラグパターンも多種多様。多様化する価値観に合わせたプロダクト。また「渓流」は沢登り、釣りなどにおけるシューズ、アクセサリーを展開。各カテゴリーにおいて必要な商品にはヴィブラムソールを積極的に採用している。

Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹