独特な世界観をシューズに与える「SUICOKE」。 「Vibram」とのものづくりはソールを超えて、 フットベッドやサンダルの開発までをともにしてきました。
「ファイブフィンガーズ」「FUROSHIKI」といったヴィブラムオリジナルのシューズから、アッパーまでのすべてをヴィブラムでつくられたサンダルなど、「SUICOKE」のこだわりは随所に溢れています。ものづくりの気質が社内の雰囲気からも滲み出ている気さえする「SUICOKE」のものづくりスピリットや開発秘話を聞いてきました。
−− SUICOKEの誕生についてお聞かせください。
SUICOKE (以下「S」と略す) 「SUICOKE」という名前はどこの国の言葉でもない、言語に関わらず誰もが同じ発音できるようにと考え、「スイコック」という音の響きで決めました。ものづくりの理念は、本当に自分たちが欲しいもの、所有したいものだけをつくっていくことです。創造開発のコンセプト「inviting atmosphere wear comfortable sandal products」を掲げています。創業者兼オーナーは、靴業界で経験を積んでいきました。そこから履き心地や靴の面白さを追求したいという思いとなり、それがブランドスタートの原点です。初期につくられた靴もヴィブラムのソールが採用されています。
−− ブランド名は音で決めたのですね。それではSUICOKEとヴィブラムの関係性を教えてください。
S ヴィブラムを採用するきっかけは世界的なソールメーカーとしての信頼性が第一の理由でした。ですが、ヴィブラムジャパン代表の眞田さんの存在も大きいものでした。ものづくりに対する彼女の専門的知識、実直性、柔軟性は、開発を進めていく上で大切な存在でしたし、それは今でも続いています。当時のSUICOKEの事務所と彼女の自宅がとても近かったので、私たちSUICOKEがどうやったら独自のスタイルでヴィブラムを使わせていただけるか、また、一緒にものづくりができるか、といったことをお話する時間をたくさんいただきました。そのおかげで自然と関係性が高められ、結果として、サンダルにヴィブラムを使うという画期的な取り組みができました。
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−− そうした関係性の中から、一歩も二歩も踏み込んだ取り組みをされたわけですね。
S ヴィブラムは、アウトソールメーカーとして多くのブランドとお取り組みをされています。アウトソールは靴の履き心地を語る上で欠かせない重要な要素です。インソールやフットベッドも同様です。シューズ全体の約50%を占める部分ですから、プロダクトを追求していくテーマとして、着目しました。それがヴィブラム社として初となるフットベッド開発に繋がっていきます。ヴィブラムが培ってきたフットウェアのゴム配合技術を最大限に生かしたフッドベッドは、他社ブランドでは見られないユニークな取り組みでした。
−− フットベッドというSUICOKEらしい取り組みも大変だったのでしょうね。
S うちは一般的にはサンダルで知られているブランドだと思いますが、ヴィブラムとの取り組みとしてはサンダルの足と接する部分「フットベッド」の取り組みがあります。2014年に初めてリリースされましたが、その前に1年くらいかけて開発しました。途中いろんなコンパウンドで試していきながらの試作の連続で、柔らかいものから釘が打てそうなくらいカチカチの硬いものまでさまざまでした。ヴィブラムも初の試みだったようです。アウトソールのコンパウンドでつくると硬いものになったのでしょうね。柔らかいと1年くらいで劣化してしまいます。一般的なサンダルはひと夏履き倒したら終わりみたいなものも多いと思います。でもSUICOKEのサンダルは長く履けるものにしたかったし、足が疲れるのも嫌だったので、ある程度の硬さがないと、とは思っていました。何度も図面や配合の調整を繰り返し、ようやく両者納得のいくものが完成しました。クッション製はもちろんのこと、反発性はまるでスニーカーを履いているような蹴り出しを生み出します。濡れたときに滑りやすい足裏との接地面もヴィブラム独自のコンパウンドによるグリップ力が遺憾なく発揮されています。
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−− SUICOKEのサンダルはデザインと機能が両立できていると思います。どんな考え方でつくってきたのですか。
S それまでのサンダルはアウトドア向けのものしかなくて、どうしても街のファッションとはマッチしづらいものでした。ソールとフットベッドを含めデザインをシンプルにまとめて、街のファッションシーンの服装にも合った靴として履けるものでありながら、野外のフェスとかにも行けるグリップ力を含めた機能を兼ね備えたものをと考えていきました。こうしたSUICOKEの要望をヴィブラムが応えてくれたという感じです。
−− 野外フェスでは小川の石を越えて移動する場所もありますから、ぬかるみや濡れた岩へのグリップ力も大事になりますよね。
S そういう機能を持ちながら、スタイルのある服にも合わせられるというのがうちの靴であると思います。
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−− 取り組みの中でもご苦労は多かったと思います。エピソードがあればお聞かせください。
S ファイブフィンガーズは大変でした。シューズ全体がヴィブラムのものなので、ソールだけを使ってアッパーのデザインをするよりも、どうすれば良いかが見えにくいものでした。そもそも、ファイブフィンガーズはヴィブラムが「できあがった靴」として世に送り出したものですから。機能を維持しながらSUICOKEらしいオリジナリティのあるデザインを完成できたことは本当によくやったな、と思いました。
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−− ファイブフィンガーズの制作の流れをお聞かせください。
S ファイブフィンガーズはヴィブラム独自のデザインだったのですが、それをファッション寄りにしたいという考えがSUICOKEチームの中から生まれてきました。そしてヴィブラムジャパンに相談して……。大変だったと思いますよ、ヴィブラムジャパンは間に挟まれて……。自由に使える5本指風のソールもあったのですが、元々指先が割れていないものでした。それを使わせてもらったこともあります。その後ファイブフィンガーズにヴィブラムの中で派生していったのだと思います。アッパーをこうしたいという要望を出して、ヴィブラムと話し合って、すり合わせて落とし所を探していくという感じですね。
−− ブランドとのコラボはどんなところに手を加えたのですか。
S 素材を変えたり、色を変えたりしながら、ブランドの要求に応えていくという感じでした。
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−− 伺っていても、ハードルをたくさん越えていますね。他のデザインではどんな風に?
S この「ARCTIC GRIP」はアウトソールのデザインをSUICOKEのオリジナルでつくってもらいました。氷上でのグリップという機能を十分に発揮できないと意味がないので、こちらのデザインに対して、「ここは面を大きくしないと効果が発揮できない」などのやりとりを何回かして、デザインを変えていきでき上がったという感じですね。
「ARCTIC GRIP」の場合は他のアウトソールとも違って特殊です。できあがった新しいデザインの「ARCTIC GRIP」を着けたシューズを足圧分機にかけます。足の裏の圧力のかかり具合を見て、ちゃんと地面にソールがついているかをテストするのです。それでオッケーが出ないと商品化されません。
「ARCTIC GRIP」の場合は他のアウトソールとも違って特殊です。できあがった新しいデザインの「ARCTIC GRIP」を着けたシューズを足圧分機にかけます。足の裏の圧力のかかり具合を見て、ちゃんと地面にソールがついているかをテストするのです。それでオッケーが出ないと商品化されません。
−− 何度もやり取りして、すり合わせて……、ファイブフィンガーズと似ていますね(笑)。
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−− アッパーのデザイン、素材、機能とソールの関係はどうお考えでしょうか?
S アッパーありきでも、ソールありきでもないというか、デザインを重視しすぎてもソールの機能の意味がなくなります。デザイン重視でつくると靴としてのバランスが崩れるので、バランスを考えながらつくっていきます。デザインのみを優先して考えていくと、どうしても取り入れられない機能や素材がありSUICOKEが求める製品として完結できないことがあります。デザインは機能や素材に付随して完成するという事が多いので、良いバランスですべてをミックスした商品を開発していければと考えています。機能性だけで考えるとデザインの幅が狭くなってしまいます。結果的にほぼ同時に考えていますね。うちのイメージでもあるサンダルでいうと軽さが重要なので、発泡の「MORFLEX」のコンパウンドを使います。一般的なスポーツサンダルというとアウトドア要素の強いデザインのものしかなかったので、上品なスタイルにもマッチし、かつ機能を備えたサンダルというものがあれば性別問わず様々なシーンで必要とされるものができるのでは? と考えました。そこで、機能面においてVibramを使用することは必然でした。アッパーは履いていて痛くならないようにストラップのテープに「ネオプレンクッション」をつけて当たりを柔らかくしました。少しでも靴ずれしないようにという思いです。
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−− 機能に適したデザインがあるということですね。それは「機能美」といえると思います。では、アウトソールの重要性はいかがでしょう?
S シューズの用途によりいかにソールがベストな機能を果たせるか? というのが重要になってくるかと思います。例えば、サンダルの場合は軽量性を重視したアウトソールを使用し、冬の着用に適したシューズ、ブーツなどには氷の上で滑りにくい「ARCTIC GRIP」を使用したりします。冬物ではムートン系のブーツを展開していますが、「ARCTIC GRIP」を使って、内側には防水シートを貼ることで、防水性とグリップ力に特化した靴にしています。アッパーのスエードも撥水性がある素材にしています。夏物だと近年ではサンダル全体に環境へ配慮した素材を使用したものも重要になっています。2022年からはECOを意識したサンダルのシリーズをつくっていて、それにはヴィブラムの「ECO STEP RECYCLE」のコンパウンドのソールを使用しています。アッパーも再生材料や分解性の天然由来の素材を使って製作しています。
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撥水性のあるスエード素材に水をかけるとこのように水が溜まります。
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−− 近年、環境に対しての取り組みも大切になっていると思います。
S SUICOKEは世界各国でお取引をしているので、これからもグローバルな視点で環境に配慮した物作りに取り組んでいければと考えています。
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−− ビーチサンダルをヴィブラムと一緒につくりました。そのときのことをお聞かせください。
S アッパーのTPUからヴィブラムという。全体がヴィブラムでできています。フルオリジナルでSUICOKEとヴィブラムで一緒につくり上げたものが「VON」です。ソールだけではなくて、アッパー(鼻緒)も難易度の高いものでした。ひと夏で履き潰すビーチサンダルではなくて、摩耗にも強く、沈みの劣化も少ない、ヴィブラムのパフォーマンスが素晴らしく、2年3年と履いてもらえるものができました。
−− 硬くなく、履き心地も良いですね。
S 昔のヴィブラムのイメージって「ワークブーツ」などのアメリカヴィブラムの硬いソールだったのですが、進化しているのを感じましたね。軽くして、摩耗にも強いものになっていきましたね。
ヴィブラムとともにつくり上げたSUICOKEの代表的なアイテムをひとつずつ解説していただきました
ヴィブラムとともにつくり上げたSUICOKEの代表的なアイテムをひとつずつ解説していただきました
MOTO-VS 世の中に流通しているスライダー型のサンダルはデザインが古臭い、レザーで歩きにくいものがほとんどでした。アッパーにスエードを使用したりさまざまなファッションスタイルに合うようにデザインしました。ダブルストラップのホールド性とフットベッド、ソールのダブルヴィブラムで機能面ももたらしています
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DEPA-V2 ストラップのスポーツサンダルをシンプルで上品に仕上げました。テープ下にネオプレンのクッションを配して心地よい足当たりを感じることができます。フットベッド、ソールのダブルヴィブラムで機能面ももたらしています。
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VON ビーチサンダルというと1シーズン履いてしまうとすぐに劣化してしまうものがほとんどでした。こちらは鼻緒からソール(フットベッド一体)までVibram製となります。摩耗に強く、グリップ力があり軽量、そしてチープではないデザインを持っているので長年愛用できるビーチサンダルに仕上がっています。
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VFF ヴィブラムで展開しているものがアクティブなシーンで活躍できるアイテムでしたので、SUICOKEはよりファッションシーンにも適用したもので考えました。日本の地下足袋からインスピレーションされたデザインで、着脱も足袋と同じようにコハゼの開閉になります。ソールのコンパウンドは「MEGAGRIP」を採用し、アウトドアでも対応できる仕様となっています。
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FUROSHIKI ヴィブラムのメインラインをベースにSUICOKE流にアレンジを加えました。FUROSIKIを初めて履いた時に本当に風呂敷に包まれているような心地よさがありました。これが布団に包まれた感覚を得られたらさらに気持ちが良いのではないか?と考えてデザインしました。通常モデルにはない中綿入りのアッパーにステッチで膨らみを持たせ、見た目的にも温かみがあります。
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SUICOKE
2006年に設立された日本のシューズブランド。本当に自分たちが欲しいもの、所有したいものだけをつくっていくというコンセプトを掲げる。高品質なシューズづくりをメインとしてスタートさせ、ヴィブラムとの共同開発で人が歩くときの動きや足の形を考慮したフットベッドを完成させた。アウトソールと合わせダブルヴィブラムのソールで、サンダルの履きやすさと機能を進化させた。その後シューズだけでなく、バッグ、ロシアの民芸品マトリョーシカ、本場のタイクッションなど、枠にとらわれない自由な発想でアイテムを展開。
Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹