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INTERVIEW 10
RUY UEDA
上田瑠偉
山岳ランナー

Vol.1フィット感の次にグリップ力

Nov 6, 2023
フィット感の次にグリップ力

2013年よりトレイルランニング競技をスタート。その翌年の「ハセツネCUP」にて、驚愕の大会新記録で優勝したことで一躍脚光を浴びた上田瑠偉選手。そのまま世界を代表する山岳ランナーへと駆け上り、2021年10月にはどのシューズメーカーとも専属契約を結ばない「シューズフリー」になるべく独立。そんな彼のシューズ選びに迫りました。

−− ヴィブラムの存在を知ったのはいつ頃ですか?

上田 トレイルランニングを始めたのと同時くらいです。

−− これまでにも、陸上などさまざまなスポーツをされてきています。パフォーマンスの向上を考えてシューズ選びをするようになったのはいつ頃からでしょうか?

上田 サッカーをやっていた小・中学校時代は、そこまで深く考えずにフィット感を重視していました。高校(佐久長聖高校)の駅伝部は強豪校だったこともあって、メーカーの方が部員の足型を測って作ってくれるような環境だったんです。そのあたりから、フィット感だけでなくアッパーなど細部についても意識するようになりました。

−− トレイルランニングの世界に入ったことで、シューズに対するこだわりや選び方の視点に変化はありましたか。

上田 大学時代に陸上のサークルに入っていて、10代最後の記念に100kmマラソンに出たんです。その際にコロンビアスポーツウェアジャパンにスカウトしていただいて、トレイルランニングを始めました。そこで初めてトレイルランニングシューズを見たのですが、最初の感想は「重いな」というものでした。

今ほど軽いシューズがなかった時代ですし、陸上も厚底ブームが来る前だったので、これまでと3倍くらい違うイメージでしたね。でも、初めて履いたシューズはフィット感が良くて、フィット感が良いと重さは気にならないんだという発見もありました。アウトソールの形状まで気にするようになったのは、間違いなくトレイルランニングを始めてからです。

−− 近年はトレイルランニングだけでなく、スカイランニングという競技にも出場されています。シューズ選びに関するさらなるこだわりを伺う前に、まずはふたつの競技の違いを教えてください。

上田 トレイルという不整地を走るという意味では、スカイランニングもトレイルランニングの一部だと言えます。ただ、フィールドに関してスカイランニングは細かく決められていて3種類あります。

中距離の「SKY(スカイ)」は累積標高差1200m以上・距離20~45km、長距離の「SKYULTRA(スカイウルトラ)」は累積標高差3000m以上・距離50~80km。登り一辺倒の「VERTICAL(バーティカル) 」は斜度平均20%以上・一部は33%以上含むという決まりがあります。
山頂までどれだけ早く行けるのかという中から生まれたスポーツでもあり、ピークを踏むことが重要視されているのはトレイルランニングと違う点かと思います。

−− 上田選手は傾斜のきついコースに強いと言われていますよね。

上田 そうですね。競技として分け隔てなく出場していますが、標高の高い山、さらには斜度がきつい登りが得意です。

−− 得意・不得意には、どういう要素が関わってくるのでしょうか。

上田 陸上である程度速い人は、心肺機能や脚力が備わっているのでトレイルランニングでもそこそこ速いんです。でも、陸上しかやってこなかった人は、下りが苦手ということが多かったりします。トレイルには根っこや岩などの障害物があって、飛び越えていく技術が必要だったり、一定のリズムでは走れないことが多いわけです。そうなると、サッカーなどのステップを求められたり横移動があるような球技経験者のほうが得意だったり、下りの度胸やスピード感のあるスキー経験者が有利だったりします。

僕の場合、傾斜のある状況でスピードを上げても、人より疲れにくい身体であることが乳酸値の計測からわかりました。その点では世界を狙えるという結果が、レッドブルの施設で出たんです。

−− 持って生まれた能力でも優っていたわけですね。さまざまなレースに出場されている上田選手ですが、新しいシューズを手にしたときはどこから確認するのでしょうか。

上田 まずはすぐに履いてみます。長時間走る競技なので、快適さを優先してフィット感を一番大事にしています。その次にグリップ。濡れた石の上や木の根っこなどで滑ると転倒する危険があり、ときに命にも関わるので滑りにくいことは大事です。

−− グリップの次はどこを見ますか。

上田 ミッドソールの柔らかさやシューズ全体の重さですね。僕が主戦場としているのは、2~3kmの距離を登り続けるもの(バーティカル)から、40kmくらいまでの中距離なので、そこでは軽い方がいいかなと思っています。ただ、軽ければいいというわけではなくて、フィット感も耐久性も大事。190~250g程度のものから選んでいます。

−− 2021年10月より、コロンビアスポーツウェアジャパンから独立されてシューズフリーになりました。今ではいろいろなメーカーからシューズの提供があるのではないでしょうか。

上田 そういうこともあります。あとは、スポンサーである『Runtrip(ラントリップ)』というランニングのWebメディアに、気になるシューズを伝えると手配してくれるので、それをラントリップのYouTubeで紹介することもあります。
上田瑠偉(うえだ るい)山岳ランナー

1993年10月3日生まれ、⻑野県大町市出身。駅伝の名門である佐久⻑聖高校卒、早稲田大学卒。
過去10年間の戦績:国内72戦52勝(勝率 72.2%)、大会新20回、国際大会優勝回数8回。2019年「Skyrunner World Series」にてアジア人初の年間王者。2021 年「スカイランニング世界選手権」にてVK種目とCOMBINED種目で金メダル。2021年10月新しいアスリート像の確立を目指すため独立し、株式会社Mountain Frontierを設立。2022年、オリジナルD2Cギアブランド『Ruy』を発表。富士山一筆書き「ONE STROKE」でギネス世界記録達成。スカイランニング世界選手権にてCOMBINED(VK+SKY)2位。

Text by 富山 英三郎
Photo by 前田 一樹