ヴィブラムの「タンク」を着けた 二足のブーツを毎日履いています。
「KIDS LOVE GAITE」のデザイナーである山本真太郎さんに、ヴィブラムソールを使うことで<KIDS LOVE GAITE>の個性的なボリューム感を出していることや、今やヴィブラムソールが山本さんにとって欠かせないソールであることを伺ってきました。今回はユーザーとしてヴィブラムソールをどう感じているか? について話していただきました。
2023 春夏のコレクションから、パッチワークのシリーズ。ヴィブラムで出したボリューム感が<KIDS LOVE GAITE>の個性。
前回はつくり手として、ヴィブラムを使うことで<KIDS LOVE GAITE>の個性的なボリューム感を出していることや、今やヴィブラムが山本さんにとって欠かせないソールであることを伺ってきました。今回はユーザーとしてヴィブラムをどう感じているか? について伺ってみました。
ほとんど毎日履いているというアウトソールがヴィブラムのブーツ。適度な重みが歩きやすい、と。
−− そもそもの話で申し訳ないのですが、<Vibram>を知ったのはどんなときだったのですか?
山本真太郎さん(以下「山本」と略) ロンドンで修行というか、丁稚を「The Old Curiosity Shop」でしていたという話はさせていただきました。イギリスで靴づくりを学んだときには「革底」やイギリスのゴム底ばかり見ていました。日本に帰ってきて、靴づくりを始めたときに白いソールに黄色い印があって、確かあれもタンクだったと思うのですが、それが印象的でした。黄色いブランドロゴが目に入って、「ソールのブランドなんだ!」と思いましたね。
−− シューズではなく、靴底ですものね。
山本 とても専門的なブランドですよね。ソールだけのブランドというのが。だから、ソールに関してはとても追求しているブランドだとも思いました。掘れば掘るほどいろんなことが出てくる!(笑)
−− その出会いがあり、使う側としてはどんな印象でしたか?
山本 使う側として見たときに、製品に対する追求性を感じるからでしょうか、安心感はありました。耐摩耗性、耐久性、コンパウンドによる機能性、デザインに至るまで安心感という言葉があっていると思います。その裏には弛まない努力、つまりテストを繰り返した結果が商品化されているのだと感じます。
毎日履いているヴィブラムのアウトソールのもうひとつと同タイプのブーツ。
−− ヴィブラムはゴムの配合、つまりコンパウンドと接地面のデザインを組み合わせてソールの機能を最大化すると考えています。テストを繰り返して、数値化もしています。人間が実際に履いてテストもしています。「コンパウンド」「デザイン」「テスト」がヴィブラムといっても良いと思います。
山本 それはヴィブラムに安心感があるはずですよね!
ヴィブラムスタッフの話に夢中に質問をする山本さん。
−− もう少し申し上げると、ゴムの配合によるコンパウンドとデザインのバランスの融合で最大のグリップとトラクション静止摩擦が得られるわけです。
山本 革底は石畳ではグリップを発揮すると思うのですが、日本ではゴム底の方がいいと思うことはありますね。それでも革底はドレスシューズとして魅力はあります。
−− イタリアの空港でイタリア軍を見たのですが、ソールはヴィブラムでしたね。
山本 ヴィブラムは軍への供給もしているのですね。軍に供給するということは機能も万全ということでもありますね。タンクのゴツさにも意味はありますしね。
−− あの凸凹は泥はけをよくするというのも一つの機能ですね。泥が詰まったら、グリップも効かなくなりますから。普段からヴィブラムは履かれていますか?
山本 今も履いていますよ。これともう一足同じタイプのブーツをほとんど毎日履いています。1年間ヴィブラム2足で暮らしていますよ。服との相性もとても良いですし、ボリュームも服のバランスが良い一足ですね。ラジオ聴きながら、1時間くらいかけて、アトリエに通うときもこのブーツです。ヴィブラムは重いと手で持つと思う人もいると思います。ですが、歩いていると重いほうが歩きやすいのです。ある程度の重みがないむしろ歩きにくいのです。その重みを決めるのがソールなのです。ソール以外ではコントロールできませんから。
−− 好きなヴィブラムのアウトソールはありますか?
山本 飴底っていうのでしょうか、この色のヴィブラムのアウトソールは好きですね。ベージュのスエードと飴色のヴィブラムの組み合わせはとても好きです。このデザインは雨に対応するというコンセプトで考えました。色によって性能が変わるってことはあるのですか?
山本さんが気に入っている「飴色」のタイプのアウトソール。
−− ヴィブラムは色によってグリップ力が変わるということがないのも特長です。
山本 試験的に立証されているのですか?
−− グリップを変えないで色を変えられるのはヴィブラムの強味ですね。
山本 スニーカーブランドへの提供も多いんですか?
−− コンバースがありますね。他にニューバランスも一部あります。ノースフェイスやコロンビアなどにも使っていただいていますね。
山本 黄色いマークはよく見ますよね。
山本さんが今季ご自身で買おうと思っているサイドゴアブーツ。シンプルだけれど、サイドゴアとのツートーンが可愛らしい。
−− ありがとうございます。
山本 話は変わりますが、ぼくの靴をヴィブラムのソールに貼り替えたという話もインスタなどで見ますね。オールソールで取り替えられるからこそです。お客さんからヴィブラムソールの交換の希望はいただきますが、アッパーとソールのバランスでデザインを考えてやっているので、ブランドとしてはお断りしていますね。ユーザーが貼り替えるのを見るのも楽しいものです。
−− いろんなシーンで使っていただけるのは、ヴィブラム社としては嬉しいですね。
山本 ぼくもお客さんがカスタマイズするのは自由だと思います。それに昨今では革底でないとマナー違反だとか言われなくなりましたからね。罷り通るようになりましたよね。フォーマルだとか、そういうシーンでもゴム底で良くなりましたからね。
−− 山本さんが今後、ヴィブラムに求めるものってありますか?
山本 ぼくは基本的にドレスのアッパーに対してヴィブラムのソールが着いているというのがアンバランスさも含めて好きなのです。ドレスのアッパーに対してヴィブラムのソールは普通ですよ、ということを広げていきたいですね。強いていうなら、使いやすさですね。ボリュームありつつ、華奢なデザインとかがあると良いですね。自由さがあったほうが嬉しいですね。求めるというわけではないのですが、同じ靴でいける場所をもっと増やしたいですね。
−− そうしたことにはお応えできると思いますので、一度ショールームに来てください。毎日履かれているというありがたいお話も伺えて、本当にありがとうございました!
山本真太郎(やまもとしんたろう)KIDS LOVE GAITE シューズデザイナー
東京生まれ。1990年に15歳で渡英。Camberwell College of Arts在籍後、「The Old Curiosity Shop」にて靴づくりを学ぶ。2000年に帰国後、東京・浅草のシューズメーカーで修行を重ね、2008年に自身のブランド「KIDS LOVE GAITE」をスタート。1990年代のロンドン・ストリートカルチャーに培われた反骨精神と芸術的視点から生まれるデザインを、職人の町・浅草で磨かれた確かな技術で具現化する「KIDS LOVE GAITE」のシューズは、山本らしい精巧な狂気をまとった無二のプロダクトと言える。近年はブランディングの一環としてウェアやアクセサリーのほか、アートピースなども手がける。
Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹