<KIDS LOVE GAITE>の 独特なボリューム感は ヴィブラムのアウトソールは欠かせません。
シャープな木型(ラスト)やブーツの細身の足首に、ソールからつま先のボリュームある重量感でドレスシューズをロンドンのストリートシーンのニュアンスに落とし込む<KIDS LOVE GAITE>。モード感あるドレスシューズにアウトドアテイストのソールや、パンクテイストをミックスしてオリジナリティ溢れるボリューム感を表現するデザイナー・山本真太郎さんに「なぜヴィブラムを使い続けるのか?」という問いを投げてみました。
ジョン・ムーアのデザインを<KIDS LOVE GAITE>らしく仕上げたヒールのシューズ。修理用のシートを貼り付けて仕上げている。
おもむろに棚からレディスのヒールのあるシューズを手に取って、話が始まった山本さん。そんな流れから、インタビューは始まりました。
山本真太郎さん(以下「山本」と略) ヴィブラムを使ったドレスとアウトドアのアンバランスの典型のデザインがこのヒールのシューズかもしれませんね。ぼくの中では普通なのですが、ヒールをドレスと考えると違和感がある、不思議なバランスかもしれません。
−− レディスのヒールにヴィブラムのアウトドアソールが強い印象を与えていますね。
山本 ぼくのオリジナルデザインではなく、ロンドンの伝説的ショップ「House of Beauty and Culture」のシューズデザイナーだったジョン・ムーアのデザインを今に蘇らせました。「House of Beauty and Culture」はその後「The Old Curiosity Shop」に受け継がれます。ぼくが修行というか、丁稚みたいなことをしていたのがこの「The Old Curiosity Shop」でした。
−− エレガントなデザインにアウトドアソールなのですが、まるで最初からこのデザインだったかのようにしっくり来ていますね。
山本 そう言ってもらえると嬉しいですね。このソールは実は修理用のヴィブラムのシートをあえて貼って完成させています。ヒールものはぼくらが「セメント」といっている製法でつくられています。そのため、ソールを取り替えにくいのです。普段、メンズシューズではよく使われるグッドイヤーウェルト製法でつくっています。これだとソールの交換も難しくありません。ですが、ヒールものはもともとソールをノリ(セメント)で貼り付けているようなものです。ソールを劣化させないためにも元からこのヴィブラムのソールを着けて販売しました。ソールがすり減ったときも交換できます。
−− ただ貼り付けたというより、デザイン的にも馴染むように貼り付けられているように見えます。
ソールを漉いて滑らかな曲線を出しているのは、デザイン的にバランスをとり、耐久性も上がる。
山本 ヒール側の高い位置から徐々に厚みが出るように漉いて薄くして貼り付けています。だから、一足一足カスタマイズしているようなものなのです。それで、しっくりと見えるように感じてもらえるのかもしれませんね。こうやって漉いて貼り付けると角がなくなるので、耐久性も良くなります。
−− 華奢な印象とのバランスが良いですよね。
山本 アッパーのデザイン的にもスクエアな分、ヴィブラムの凹凸が華奢なところに入って、バランスが取れているようになったのだと思いますね。実際にこれを出したときに重宝したという話をいただきましたね。他にもこのやり方で、ヴィブラムのアウトソールを着けているものがあります。僕らは「メロン柄」と呼んでいるものを貼り付けたタイプもありますね。これも修理用のシートです。それもすごく好きです。
−− ドレッシーなシューズにアウトドアのゴツめのソールにしたのはどうしてですか?
山本 歩きやすさ、というのはありますが、それ以上にバランスですね。<KIDS LOVE GAITE>のボリューム感にしたかった、というのはあります。
エレガントなアッパーに「タンク」と呼ばれる登山由来のゴツいソールを装着した。このタイプは山本さんが個人的にも履いている。
−− 山本さんらしさを演出するということでしょうか?
山本 ぼくのつくる靴はボリュームが大事です。トータルのバランスで体を見たときに靴のボリュームを感じるように特長を持たせています。そのボリュームを形成する上でソールは欠かせない存在です。
−− <KIDS LOVE GAITE>のシューズは全身コーディネートで見た場合、とても体全体が安定感を感じるように見えますね。それはシューズのボリュームが他のブランドに比べてどっしりしているからだと感じます。
山本 専門的な話をしますが、通常の革底をつくるときは3枚重ねます。ですが、革を3枚重ねるとソールが硬くなって、返りはなくなります。<KIDS LOVE GAITE>の靴は自分が履くなら、という想定でつくっているのですが、返りのない靴は自分にはない、と思うわけです。革底もデザインを含めて必要に応じて使います。とはいえ、「剛性」「機能」、劣化しづらいもの「耐久性」を考えると必然的にゴム底、硬質スポンジ系のものになります。ソールは何社もありますが、ヴィブラムの凸凹のボリューム感やサイドから見たときのアッパーの木型とソールのバランスが一番フィットしたのが、「タンク」と呼ばれるヴィブラムの代名詞のような登山由来のソールでしたね。
メンズのドレッシーなシューズにヴィブラムを使用した、2023春夏のコレクション。クレープソールのようなボリュームでパンク感を演出。
−− 最初からヴィブラムを使っていたのですか?
山本 ヴィブラムのタンクに至るまでは少し時間がかかっています。最初はクリーパーが好きで、ソールは「クレープ」と呼んでいるのですが、スポンジの周りを生ゴムで巻いて形成しているソールを使っていました。重みとか捲れ上がってしまう劣化もあります。そのときにヴィブラムの2021を知って、一体成形なので、軽さ、劣化や摩耗の対応、歩行性、アッパーとソールの厚みのバランス、すべてががっつりハマったので、タンクより先にこっちから入りましたね。ブランドを始めた当初は厚底というかクリーパーを推していました。そこからタンクに流れるのは必然ですね。色も白もあるし、良いですよね。足元のボリュームバランスは木型とソールとの関係性で靴づくりの最初に考えます。そのときヴィブラムのアウトソールはぼくの中では合致することが多いですね。革底に近い他社のソールも使います。
−− それはシューズ全体のボリューム感の調整という役割として、ソール選びを考えていらっしゃるわけですか?
山本 そうですね。ヴィブラムで横から見た印象が革底に見えるものがあれば、検討したいと思いますね。
−− ぜひご検討いただきたいですね! これもグッドイヤーウェルト製法といって良いのでしょうか?
山本 正確には「グッドイヤーウェルトセメンテッド」という方法でヴィブラムのアウトソールを装着しています。実際にはヴィブラムのアウトソールがあって、次に硬質のEVAがあってその間にもうひとつ合成ゴムが噛まされているのです。この合成ゴムに対してミシンがかかっています。それでソールを貼っています。なので、ソール全体も交換できます。
−− このやり方で剛性を保ちつつグッドイヤーウェルト製法でのラバーができるというわけですね。
山本 この厚みをグッドイヤーウェルト製法で打ち抜いて縫うというのは現実的ではありませんからね。
いきなりヴィブラムを使ったシリーズの話から、山本さんのヴィブラムのバランスがご自身の靴づくりのデザイン性にマッチしている話などを伺えました。次回はヴィブラムとの出会いや使い心地について伺っていきたいと思います。
山本真太郎(やまもとしんたろう)KIDS LOVE GAITE シューズデザイナー
東京生まれ。1990年に15歳で渡英。Camberwell College of Arts在籍後、「The Old Curiosity Shop」にて靴づくりを学ぶ。2000年に帰国後、東京・浅草のシューズメーカーで修行を重ね、2008年に自身のブランド「KIDS LOVE GAITE」をスタート。1990年代のロンドン・ストリートカルチャーに培われた反骨精神と芸術的視点から生まれるデザインを、職人の町・浅草で磨かれた確かな技術で具現化する「KIDS LOVE GAITE」のシューズは、山本らしい精巧な狂気をまとった無二のプロダクトと言える。近年はブランディングの一環としてウェアやアクセサリーのほか、アートピースなども手がける。
Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹