トレイルランニングからスカイランニングまで、あらゆるレースに出場している上田選手。距離や地形、サーフェスが違うなかで、どのようにシューズを使い分けているのかを聞きました。
−− シューズはどのように使い分けているのでしょう。
上田 ロードランニングでは走るペースやトラックで使い分けたりしますが、山の場合はまず距離で考えます。それによってクッションの具合いを使い分けたり、あとは傾斜ですね。傾斜が急なほどアップダウンも激しくなるので、グリップの強いシューズを選びます。逆に、なだらかなトレイルであれば、そこまでグリップは求めません。
−− その他にも検討する要素はありますか。
上田 あとはサーフェス(路面状況)ですね。乾燥しているのか、泥っぽいのか、岩が多いのかなどです。
−− 今回、「MERRELL(メレル)」と「NNormal(ノーマル)」のシューズを持参していただきました。これはどのようなレースで履かれているのでしょう。
上田 MTL SKYFIRE 2(メレル)はかなり軽い一方、アッパーの構造が繊細なので、30km以下の距離で使っています。アウトソールにはヴィブラムのメガグリップが使われていて、芝生など草が多い場所でもよくグリップしてくれるので気に入っています。先日もレース前日が雨だったこともあって、グリップを頼りにこのシューズをチョイスしました。
こんなふうに、剥き出しのミッドソールの上にヴィブラムを貼っているシューズは初めてだったんですけど。最初は線の細い場所がもげたり、千切れたりしそうなイメージでしたが、そういうことは全くなく、岩場をアグレッシブに攻めても問題なかったです。
こんなふうに、剥き出しのミッドソールの上にヴィブラムを貼っているシューズは初めてだったんですけど。最初は線の細い場所がもげたり、千切れたりしそうなイメージでしたが、そういうことは全くなく、岩場をアグレッシブに攻めても問題なかったです。
MTL SKYFIRE 2(MERRELL)
−− 「NNormal(ノーマル)」の方はいかがですか?
Kjerag(ジェーラグ)もすごく軽くて、自分にとってはメレルより履き心地が良いです。なので、もう少し長距離のときや、練習でよく使っています。これもヴィブラムなので滑りにくいですし、耐久性もあります。メレルの方はラグが深くて地面に刺していく感じですが、こちらはライトベースとメガグリップを複合的に使っていて、全体的に圧をかけてグリップさせる感覚があります。
Kjerag(NNormal)
−− アウトソールのラグの配置やパターンにこだわりはありますか?
上田 細かく配置されていると目詰まりしてしまうことがあるので、離れていたほうが泥離れもよくグリップしやすいというのはありますね。
−− メーカーによってグリップ力の差に違いはあるものでしょうか?
上田 全然違います。シューズメーカーが独自に開発しているもの、ヴィブラムのような専業メーカーのものなどいろいろありますが、モノによってはびっくりするくらい滑るものがあります(笑)。転倒しないように慎重に足を置く必要があったり、余計な心配も出てくるので、一定のグリップ力は必須になってきます。
−− 開発している国によって設計思想も違いそうですね。アメリカは乾燥していることが多く、日本の山は雨が多いなどありますから。
上田 それはあるかもしれないですね。僕が独立してシューズフリーになった理由のひとつに、各国のトレイル、フィールド、距離に合ったものを自由に選択したいという気持ちがありました。急峻な山岳地形が多いヨーロッパでは、屈曲性の良い(柔らかい)アメリカ向けのシューズだと足底が伸ばされて、傾斜がきつい場所では足底が痛くなることが結構あったんです。
−− レースの開催地によって違いは大きいわけですね。どれくらいの候補の中から絞って、実際に何足くらい持って遠征に行かれるのでしょうか?
上田 春先に新モデルがいろいろと出るんですけど。そこで6~7足をピックアップして、ある程度履き慣らして、3足くらいに絞っていく感じです。でも、現地に行ったらコース状態が思っていたものと違って、急遽、現地調達したこともあります。もちろん、以前に履いたことのあるモデルですけどね。
−− これまでに数多のシューズを試されているわけですが、ヴィブラムの印象はいかがですか?
上田 どんなフィールドでもしっかりと効いてくれるグリップの良さには信頼を置いています。あと耐久性も高い。「このシューズのソールがヴィブラムだったらいいのに」ということはよくあります。
−− 出場する大会はどのように選ばれているのでしょうか?
上田 トレイルランニングやスカイランニングをやっている一番のモチベーションは、見たことのない景色や絶景を観に行きたいというのがあるんです。なので、出たことのないレースに出たいですし、SNSや大会のホームページにある景色から選ぶことも多いです。
あとは、アスリートとして結果を出さないといけないので、世界選手権や国際大会など、単純にコンペティションとして強豪選手が集まるところですね。
あとは、アスリートとして結果を出さないといけないので、世界選手権や国際大会など、単純にコンペティションとして強豪選手が集まるところですね。
−− ヴィブラムは、UTMBシリーズの公式サプライヤーになりました。ご興味はありますか?
上田 トレイルランニングを始めた頃は、僕もUTMBに憧れて、そこに向かってやってきました。現在でも一番盛り上がっている大会ですし、今ではUTMBシリーズとして世界各国でおこなわれています。景色も綺麗だし、運営もしっかりしているところが多いので気にはなります。
ただ、来年に関してはUTMB(モンブラン)の翌週にスカイランニングの世界選手権があるので、難しい判断にはなってしまいますね。でも、UTMBシリーズに関しては出場したことのないレースも多いので、選ぶ指標にはなると思います。
ただ、来年に関してはUTMB(モンブラン)の翌週にスカイランニングの世界選手権があるので、難しい判断にはなってしまいますね。でも、UTMBシリーズに関しては出場したことのないレースも多いので、選ぶ指標にはなると思います。
−− 今後、ヴィブラムに期待することはありますか。
上田 ヴィムラムの契約アスリートは、自分の好きなシューズにヴィブラムのアウトソールを貼ることができるので、そこは憧れるんですよ。ナイキのヴェイパーフライにヴィブラムを付けている選手がいて、「めちゃくちゃいいじゃん!」と思ったり。
−− 実は、UTMBシリーズの公式サプライヤーになったことで、そういうアクティビティの提供が始まっているんです。リペア工房になっているトラックが会場にやってきて、自分の靴をヴィブラムのソールに替えることもできますよ。
上田 そうなんですか! もうやっているんですね。それが叶うとなれば、僕からの要望はもうないです(笑)
−− 是非、ヴィブラムのソールを付けたオリジナルのシューズを試してみてください。本日はありがとうございました。
上田瑠偉(うえだ るい)山岳ランナー
1993年10月3日生まれ、⻑野県大町市出身。駅伝の名門である佐久⻑聖高校卒、早稲田大学卒。
過去10年間の戦績:国内72戦52勝(勝率 72.2%)、大会新20回、国際大会優勝回数8回。2019年「Skyrunner World Series」にてアジア人初の年間王者。2021 年「スカイランニング世界選手権」にてVK種目とCOMBINED種目で金メダル。2021年10月新しいアスリート像の確立を目指すため独立し、株式会社Mountain Frontierを設立。2022年、オリジナルD2Cギアブランド『Ruy』を発表。富士山一筆書き「ONE STROKE」でギネス世界記録達成。スカイランニング世界選手権にてCOMBINED(VK+SKY)2位。
Text by 富山 英三郎
Photo by 前田 一樹