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INTERVIEW 03
HIROMICHI OCHIAI
落合宏理
FACETASM デザイナー

Vol.2好きな靴をヴィブラムに交換

Feb 8, 2023
好きな靴をヴィブラムに交換

好きな靴をヴィブラムに貼り替えて、 靴を大事に長く履くのもサスティナブルです。

「Convenience Wear」のクリエイティブディレクターとして、サスティナブルなアプローチにも余念がない落合宏理さん。靴を長く履いて欲しいという思いもあり、ご自身もすり減ったソールをヴィブラムにカスタマイズして大切に履くこともあるそうです。今回も多岐に渡るお話を伺いました。

−− ヴィブラムはシューズメーカーではなく、あくまでソールメーカーという特殊な立ち位置だと思います。落合さんにソールメーカーとしてどんな印象がありますか?

落合 ソールの専門家だからでしょうね、履きやすさを感じる理由は。足が痛くならない。ヴィブラムじゃないと違和感を感じたりするときもあります。長く履いて欲しいという気持ちもあるので、ヴィブラムの耐久性は嬉しいですね。買った靴のソールがしっくりこなければ、ヴィブラムに貼り替えて長く履いて欲しいですね。それはぼくもやっていて、でも、ボロボロすぎて、今日は持って来られなかった……(笑)。

−− カスタマイズはされるのですね。

落合 何度かありますよ。モカシンのソールを張り替えたこともあります。貼り替えたときもそうですが、行く場所によって、ヴィブラムをチョイスすることでライフスタイルが充実することもあると思います。最近、「Convenience Wear」をやっています。「自分自身を愛そう」がコンセプトなのですが、なるべく体に良いものだったり、自分自身のバランスが整うものをどうデザインの中に入れていけるかということを考えます。女性の社会進出でヒールを履かなくなるといわれていますが、スニーカーで常にいるのはTPOとしてどうなのか、って思うじゃないですか。ヴィブラムがあれば、新しいライフスタイルとして提案できることもあると思います。ヴィブラムがあるだけでアッパーがドレスなのにスニーカー感覚で履けますよね。そういう意味でもTPOへの対応がアップデートできて、それが歩きやすさにつながれば、体に良いことだと思います。

−− ヴィブラムの思い出といいますか、ヴィブラムを意識するきっかけはありましたか?

落合 学生時代に「プロペラ(原宿にあったアメカジショップ)」はよく行っていましたが、そこで「Danner(ダナー)」を知り、ヴィブラムを知りました。だから、デザイナーになって念願叶ってヴィブラムを使えるってときの嬉しさったら、なかったですよ(笑)。自分でつくったもので特に覚えているのは2015年にアルマーニさんに呼ばれたミラノコレクションのときですかね。コレクションで靴を全員分揃えるのってめちゃくちゃ大変なのです。20足つくるなんて小さいブランドにはお金の面でかなり厳しい。ただ、当時伊勢丹さんとお話があって靴の衰退から浅草の街を盛り上げるためにということでシューズブランドを手伝ったことがあるのです。おかげでミラノコレクションでも靴をたくさんつくることができて、ヴィブラムを結構使わせていただいて、良いシーズンになりました。コルクの素材のサンダルにヴィブラムを使って、それは海外でも人気がありましたね。もっとヴィブラムでシューズをつくりたいって思います。靴だけではなく、コレクションの完成度が高くなりますね。新しい価値観でやっているブランドにとってはヴィブラムソールの進化をうまく使いこなせるとも思いますしね。

−− 先ほどヴィブラムは安心とおっしゃっていただきましたが、バックグラウンドが登山から始まったということはありますね。

落合 もしかすると、ぼくらや、もっと若い世代はもうヴィブラムイコール登山というのではないかもしれませんね。安心感としては登山というイメージですが、若い子には都会的なソール、アーバンソールというのでしょうか、そんな感じで認識されていると思います。

−− 履き手として、ヴィブラムソールのシューズの思い出はありますか?

落合 「Blohm」はブランドの立ち上げからの付き合いで、彼のシューズはソールがヴィブラムなのでよく履いています。アンユーズドのモカシン、ダナーもそうでしたし、メレルもですね。知らぬ間にたくさん履いている気がします。ぼくは1997年に文化服装学院に入って、パタゴニアが目白にあって、ペットボトルでフリースつくっているってどんなものだ? って見に行きましたね。当時はマルタン・マルジェラにアウトドアを合わせるのが格好良いと思っていました。その足元はダナーとかメレルとか、結構頑張ってたんだなぁ(笑)。マウンテンスミスもありましたね。当時はネットも携帯もなかったですから、並行輸入の店に行って、ヴィブラムはいろんなところで見ましたね。昔のことではないですが、張り替えができるのはやはり良いですね。踵が削れたり、つま先が減ったり、それでソールを貼り替えて、ながく履けば良いアジも出ますしね。サスティナブルって言いますが、そんな感覚ではなく、同じものを持って貼り替えて大切に履くのも大切なことですね。昔は当たり前だったのですから。

−− 昔は家の近所に大体、「傘の骨つぎます」とか、「靴の底貼り替えます」とかありましたからね。

落合 今の子たちに張り替えもあるって、教えたいですね。

−− 最近は大切にするリペアも増えてきていますが、カスタマイズでヴィブラムに張り替える方は増えているようです。修理屋さんが新しいスタイルを提案しているというのもありますね。サスティナブルという意味ではヴィブラムは1994年にはリサイクル素材のソールをつくっていましたね。

落合 ぼくらとしてもデザインする上ではリサイクルありきで考えていかないといけない時代ですからね。それがマナーですし、環境にも良いし、自分がやれることがあって、それがおしゃれでいられるって最高ですよね。自分のできる範囲でやるしかないのですが。張り替えだって、ソールも厚さを替えたりして自分らしさを出せば良いと思います。最近、中古のアイリッシュセッターを買いましたが、ヴィブラムに替えようと思いました!

−− ありがとうございます!

ソールという視点からのインタビューで、普段の服づくりのインタビューとは一味違うお話を伺えたという印象です。特に靴を大切に履くためにソールの張り替えを推奨してくださったことが印象的でした。落合さん、ありがとうございました。
落合宏理(おちあいひろみち)FACETASM デザイナー

東京都出身。2007年「FACETASM」設立。2016年にはリオ五輪閉会式「フラッグハンドオーバーセレモニー」の衣装製作を担当。同年第三回LVMH Young Fashion Designer Prizeにて日本人で初のファイナリストに選出、第34回「毎日ファッション大賞」で大賞を受賞。2021年にファミリーマートの新しい衣料品ブランド、「Convenience Wear」のクリエイティブ・ディレクターに就任。その多様な取り組みのひとつひとつは、まさにブランド名のベースとなった「facet(フランス語で多面体の面の意味)」のようだ。

Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹