ヴィブラムはドレスシューズと スニーカーの架け橋なのだと思います。
「FACETASM」のデザイナーであり、ファミリーマートの「Convenience Wear」のクリエイティブディレクターを務める落合宏理さん。インタビュー当日、個人オーダーしていた「Blohm(ブローム)」のシューズが届くというサプライズがありました。届いたばかりの「Blohm」のお話からインタビューはスタートです。
落合宏理さん(以下「落合」と略す) (届いたばかりのシューズボックスを開きながら)さっき事務所に届いたばかりの「Blohm」もヴィブラムをずっと使っています。デザイナーとは文化服装学院時代、18歳からの友だちのシューズブランドです。個人オーダーしていたのがそろそろ来るかな、と思ったらまさに今日来ました! これはメキシコのルームシューズをモチーフにしてデザインしたものですが、ヴィブラムにして、チープさがなくなってエレガントに仕上がっていますよね。
インタビュー当日届いた「Blorm」のスリッポン
−− ソールがやわいものだとただのルームシューズにしかならないですよね。
落合 そこにヴィブラムがあるだけで東京の高いクオリティになると思いますね。「Blohm」は毎回ヴィブラムを使っていて相性も良いと思います。よく履かせていただいていますよ。
−− 落合さんから見たヴィブラムの魅力って何ですか?
落合 ソールの取材って本当に初めてで(笑)。どこまで話せるかわかりません(笑)。インタビュー前に改めて調べてみたのですが、本当にすごい歴史ですね。K2の話もそうですし、歴史が物語っていますね。ファッションデザイナーなので毎シーズンのコレクションがあります。そこでブーツや革靴もつくります。そのときに選ぶ基準にヴィブラムがあるというのは、あって当たり前のレベルですね。靴のブランドではないのですが、クオリティを上げてくれる重要なパーツだというのはわかります。靴のブランドがクリエーションを重要視するのに対して、クリエイティブを重要視するのがファッションブランドの役割だと思います。シューズのソールがヴィブラムになることによって、クリエイティブがクリエーションとして充実していくというか、アップデートされます。それで、ひとつのコレクションが完成するのです。ここ数年はスニーカーが多いのですが、少し前までのコレクションでブーツをつくるときなど、ヴィブラムを必ず使っていました。履き心地の良さはもちろんなのですが、デザインのチョイスとしてあの黄色のロゴのパーツがあるというのはとても大きいです。
−− 落合さんの独創的なコレクションの中で選ばれているというのは嬉しいお話です。
落合 ぼくだけではないと思います。東京でクリエイティブ、クリエーションをして靴をつくっている人の中でもストリートだったり、東京のカルチャーをわかっている人はヴィブラムをチョイスすることはある程度不可欠なものになる気がします。
−− 使う側としてのヴィブラムの印象はどのような感じですか?
落合 全体がまとまるという印象ですね。例えば、エレガントなアッパーのデザインをしてもヴィブラムが入ることで東京らしい感じ、つまり東京のファッションはストリートとモードの間といいますが、ヴィブラムが入ることでカルチャーのミックスができるのだと思います。ぼくらの世代のデザイナーとしてはヴィブラムがデザインの広がりを見せることや、カルチャーを感じさせるのにとても重要な存在になっています。
−− ヴィブラムがアイコン的になるということですか?
落合 ナイキのスウッシュ、ティンバーランドのイエローヌバック、レッドウィングのアイリッシュセッターと同じようにキャッチーなものとしてヴィブラムのイエローのロゴは信頼されるものです。これからもずっと続くものだと思います。コンバースのオールスターとの取り組みを見ていてもそれを感じましたね。オールスターは100年続いたデザインですし、これから100年続くデザインだと思います。あの普遍的なデザインをヴィブラムが機能をアップデートさせながら、デザインを邪魔していないことが素晴らしいですね。うまく言えませんが、目立つけれど目立たない、「侘び寂び」を知っているのではないか、と思ってしまいます。デザイナーたちにとって、使いやすいものだと思いますよ。
−− デザインと機能という面からは落合さんにとってはどのあたりに注目されるのですか?
落合 機能に関しては絶対的に安心していますね。手放しでオッケーです。その先が大切だと思っています。デザインをより強く打ち出すことができるものとして見ています。ヴィブラムが入ることによって、あえて「違和感」を演出できたり、アッパーのデザインを引き出すことができたり、デザイナーとして足したり、引いたりすることができるデザインをヴィブラムソールは持っています。ヴィブラムはスニーカーとドレスシューズの間の架け橋というイメージはありますね。あのソールはどうやってデザインされるのですか?
−− ヴィブラムのデザインの考え方としては歩いているときの安定性、泥はけを良くする、例えば山のシーンであれば、岩にかかりやすいようにするというようなストーリーを抑えた上でアウトソールとしてまとまるようなデザインに落とし込んでいく、という感じですね。
落合 それが他のソールと違うところですね。ストーリーがあるからデザイナーとしては使いやすいのです。
今回はデザイナーとして、ヴィブラムの魅力を語っていただきました。次回は履き手としての印象を伺います。
落合宏理(おちあいひろみち)FACETASM デザイナー
東京都出身。2007年「FACETASM」設立。2016年にはリオ五輪閉会式「フラッグハンドオーバーセレモニー」の衣装製作を担当。同年第三回LVMH Young Fashion Designer Prizeにて日本人で初のファイナリストに選出、第34回「毎日ファッション大賞」で大賞を受賞。2021年にファミリーマートの新しい衣料品ブランド、「Convenience Wear」のクリエイティブ・ディレクターに就任。その多様な取り組みのひとつひとつは、まさにブランド名のベースとなった「facet(フランス語で多面体の面の意味)」のようだ。
Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹