日本のブランドのために特別なデザインを作成するソールにおける世界のトレンドセッターです。
ヴィブラムの本社があるイタリアから、バイスジェネラルマネージャーのダビデ・カンチャーニが来日した。マーケティングという市場を俯瞰で見る立場からの、日本という市場の印象や、今後ヴィブラムと日本のものづくりをどう考えているのか聞いてみた。本国からの貴重な声が聞ける機会です!
−− ヴィブラムにとって、日本、それも東京というマーケットは他国と比べて特殊なのでしょうか?
ダビデ 日本はアメリカやヨーロッパとはまったく違うマーケットとエンドユーザーがいます。日本はアウトドアの比率が低く、アーバンライフスタイル(日常生活やファッション、ビジネスシューズ、ドレスシューズなどを使用目的とするもの)の需要が高いのです。逆にヨーロッパやアメリカはヴィブラムの伝統でもある、アウトドアとスポーツの比率が高く、日本はかなり特殊だと思います。
−− その違いの理由というのはリサーチされているのでしょうか?
ダビデ ヨーロッパやアメリカと比べハイキングや山登りという環境が違っていて、日本には独自のアウトドアとライフスタイルをミックスしているのが特徴です。新しく都会的なトレンドがどんどん生まれているので、アウトドアという概念も違っています。ただし、日本の場合アウトドアシューズが中国、タイ、アメリカ、ヨーロッパなどからシューズとして製品化されてから輸入されている商品が多いので、ヴィブラムを使ったシューズでも日本のマーケットの比率に反映されないということもありますね。
−− その特殊な市場である日本のソールを考えるデザイナーはいるのでしょうか?
ダビデ 2パターンのビジネスがあります。一つ目は、マーケットにおいてどのようなソールであるべきかを定義して作るオープンソールです(いわゆるカタログに載っている定番のもの)。二つ目は、日本のブランドと直接やりとりをしてユニークなものを一から作成しています。
−− 日本だけに向けたデザインがあるということは、とてもありがたいことですね。では、日本向けのオリジナルのデザインするとき、どこに気をつけていますか? つくる際の視点の違いはありますか?
−− 日本だけに向けたデザインがあるということは、とてもありがたいことですね。では、日本向けのオリジナルのデザインするとき、どこに気をつけていますか? つくる際の視点の違いはありますか?
ダビデ ある限定された地域に向けてのデザインはそこに住む人々や地域のブランドが求めるものを理解することから始まっています。そこにファッション性やデザイナーのニーズを入れ込んでいく作業ではあります。ですが、ヴィブラムの姿勢は要望に答えますが、東京だから特別ということもありません。
−− 東京のシューズはドレスのアッパーににあえてゴツいソールをつけることもよくあります。ダビデさんにはどんな印象に写っていますか? ヴィブラムとしてその使い方は好ましいものですか?
ダビデ 日本ではシティとアウトドアをミックスすることが流行っていますが、このトレンドは世界的なものでもあるのです。だから良いことだという印象はありますよ。そういったデザインを「シティアウトドア」と呼ぶこともあります。
−− アッパーにはクラシックがブームになったり、ハイテクなデザインがブームになったりという流行がありますが、ソールという独特な世界でもデザインの流行というのはあるのでしょうか?
ダビデ ソールにもトレンドがあります。フォーマルなデザインにアウトドアのソールを合わせるということで考えれば、アウトドアソールはトレンドなのです。これはもしかたら、日本発信のトレンドではないか、と思っています。
−− 世界のマーケットではドレス&カジュアルは低いと伺っていますが、日本の状況は違いますか?
ダビデ そうですね。海外では9〜10%ですが、日本では60〜70%とかなりの差があります。先ほど申し上げたアウトドアシューズの輸入が多いということはありますが、それでも多いですね。ですが、私たちはそれぞれの国のマーケットに対して、適したものをつくっているだけですから、こうした差ができることもノーマルなことだと思います。中国や韓国も違います。韓国は「スポーツ・シティ・アウトドア」とでも呼ぶべきセグメントの比率が高いですね。近年パンデミック後に特にアウトドアの比率が増えました(とはいってもヨーロッパやアメリカのアウトドアとは全然違いますが)。中国に関していえば、「アスレジジャー」と言われるジャンルが発達しています。この言葉は「アスレティック」と「レジャー」を足した造語ですが、中国の特徴的なマーケットですね。
−− 日本のシューズメーカー、デザイナーの多くにもこのインタビューは読まれていると思います。彼らに伝えたいことをお話しください。
ダビデ ヴィブラムは85年以上の歴史があります。その伝統が生み出すクオリティと日本のシューズブランドやデザイナーと伴にソールを作っていくことで、エンドユーザーが満足する良いシューズをつくるパートナーになれると思っています。一緒につくっていきましょう! 化学ゴム化合物、つまりコンパウンドに対して「実績」と「経験」と「スキル」と「知識」がありますので、それをエンドユーザーに対して優れたパフォーマンス力とデザイン、耐久性のあるベストなコンパウンドにすることがヴィブラムの使命だと考えています。ミリタリー、スポーツ、アウトドア、ライフスタイル、靴修理屋のCobbler(コブラー) といったアフターマーケット、安全靴といった分野にヴィブラムは供給しています。幅広い分野で日本のブランドと一緒にものづくりができると思っています。
−− 同様にエンドユーザーに伝えたいことをお話しください。
ダビデ ユーザーに対してすべてのステップ、一歩一歩を自信をもって踏み締めてもらいたい、パフォーマンスを高めるためのコンパウンドとデザインです。それは85年の歴史に裏付けられているものです。それは耐久性とクオリティとパフォーマンスであり、それをイノベーションしていくのが私たちヴィブラムなのです。
−− 85年の歴史というのは本当に尊いものだと思います。日本のシューズデザイナーやアパレルのデザイナーに取材をしても、「ソールはヴィブラムを選べば、安心」という絶大なる信頼を持っています。彼らにもコメントをお願いします。
ダビデ エンドユーザーとデザイナーたちに対して、そのような自信を与えられるのは嬉しいことですし、バリューを感じてもらえるのは光栄です。その信頼に応えるためにクオリティにこだわりヴィブラムをつくっています。
−− 日本では30年くらい前からヴィブラムというのはソールなのに本当にブランドでした。特にメンズシーンでは雑誌が紹介してからというもの「ヴィブラム」は多くの人が靴底をチェックして、ヴィブラムさえ着いていれば安心と思いました。これは世界でもそうなのですか?
ダビデ アメリカやヨーロッパの10年前までは30代40代のアウトドアに詳しい人のメンズが主流だったのですが、ここ数年はユーザーが変わってきました。若い人と女性にニーズの幅が広がっています。それが結果的にアウトドア以外のソールに広げてくれました。ミレニアル世代やZ世代といわれる2000年以降の若者に人気が出てきています。ですからチャネルも新しいものを取り入れ、Tik Tokもヴィブラムの波及に利用しています。
−− 何度も日本を訪れていると思いますが、日本人の足元はいかがでしょうか?
ダビデ コロナ禍で今回もあまり見られていないのですが、日本は絶対的にトレンドセッターです。一緒に働いていきたいですね。生活様式という意味でも、シューズやソールという意味でもです。
ダビデ・カンチャーニ(Davide Canciani)ヴィブラム本社バイスジェネラルマネージャー
Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹