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INTERVIEW 15
DAIWA
ダイワ

Vol.2ヴィブラムと共同開発した新製品の実力を探る

May 21, 2024
ヴィブラムと共同開発した新製品の実力を探る

今年2月に「DAIWA」が新たなウェーディングシューズをリリース。ヴィブラムと共同開発したIDROGRIP FLEX採用のソールの実力を探る。

前編では、DAIWAのシューズ開発のキーマンである山﨑翔平さんにブランドの歩みとヴィブラムとのパートナーシップについてうかがいました。後編では、今年2月に発売された新しいウェーディングシューズをリポートします。グリップ力や履き心地のよさはもちろん、環境にも配慮したヴィブラムのソールを装着したニューモデルは、フィッシングギアの未来を映し出します。

グローブライド株式会社 フィッシングアパレルマーケティング部 フットウェアMD 山﨑翔平さん
山口県出身。エスペランサ靴学院卒業後、靴作りの道へ。デザイナーズブランドやレディスメーカーで経験を積んだ後、本場の靴作りを学ぶため、イタリアへ留学。その後、グローブライド株式会社へ入社し、DAIWAのフットウェアを手がける。小学生の頃、下関での投げ釣りをきっかけに釣りの魅力に目覚め、現在は東京湾や多摩川でのシーバス釣りにハマっている。

−− ウェーディングシューズの「ウェーディング」とはどのような意味ですか?

山﨑翔平さん(以下「山﨑」と略す) 海や川の中に入って行う釣りのことです。魚の世界である水中に身を浸すことで自然との距離を近く感じることができ、陸やボート上の釣りでは味わえない非日常を味わうことができます。通常、ウェーダーと呼ばれる腰や胸までの胴長靴をはいて行います。

creative:RYOWAN INC.
photographer:SHIMPEI SUZUKI

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photographer:SHIMPEI SUZUKI

−− 水の中に入るということは、靴にも高い安全性が要求されます。

山﨑 水中や水際の岩は苔や藻などが生えていてとても滑りやすく、バランスを崩して転倒すれば、事故につながる危険も。すり足で進むなど歩き方にもコツがありますが、何より大切なのは靴がスリップしないことです。そこでDAIWAは新しいウェーディングシューズの開発に取り組みました。

ウェーディングシューズ WS-2302C 1

−− そうして完成したのが、今年の2月にリリースされたウェーディングシューズですね。

山﨑 はい。「ウェーディングシューズ WS-2302C」は源流域と小渓流での着用を想定したモデルです。最大の見どころは「IDRAGRIP FLEX」を採用したヴィブラムと共同開発したソール。ヴィブラムがフィッシングのために開発したゴム配合を採用したソールは、濡れた岩場でも優れたグリップ力を発揮します。

−− 数あるソールの中、ヴィブラムのソールを選んだ理由は?

山﨑 これまでウェーディングシューズといえば、化学繊維を圧縮してシート状にした「フェルトソール」が搭載されたモデルが主流でした。濡れた岩や石を踏んでも滑りにくいソールですが、その反面、水に濡れると重くなったり、土が絡んだりしてしまい、林道を歩くのには向いていませんでした。特に山深い源流域や小渓流での釣行は、足場の悪い山中を長距離移動することも多いため、今回採用したヴィブラムのソールにアドバンテージがあります。

creative:RYOWAN INC.
photographer:SHIMPEI SUZUKI

−− なるほど。ウェーディングだけでなく、林道での移動にも対応したハイブリッド仕様というわけですか。

山﨑 その通りです。ヴィブラム「IDROGRIP FLEX(イドログリップ フレックス)」なら、水を吸ったり、土が絡んだりすることもないですし、耐摩耗性や速乾性にも優れています。さらに「IDRAGRIP FLEX」はしなやかで屈曲性に優れているため、長時間歩いても足が疲れにくいのもポイントです。
ただ、万能というわけではなく、藻や苔が多い渓流や中流域では、フェルトソールやフェルトスパイクの方が滑りにくいので、ゾーンによって使い分けることをおすすめします。

creative:RYOWAN INC.
photographer:SHIMPEI SUZUKI

−− それぞれに得意なゾーンがあるのですね。

山﨑 ただ、フェルトソールには意外なデメリットが懸念されているのです。フェルトに外来種の苔が絡まって、そのままアングラーが移動すると、苔が別の場所に運ばれてしまうというケースです。近年、日本でも外来種の苔が問題になっているので、フェルトソールの使用には環境面での不安が残ります。実際、ニュージーランドではフェルトソールの使用が禁止されています。

−− 試着してみました。履き口がガバッと開きます。

ストッキングタイプのウェーダーでも履きやすいよう履き口を大きく開くように作っています。足型も大きめに設計していて、薄い靴下で使用したい場合は、付属のインソールでサイズ感の微調整ができます。ハイカットですが、アッパーがしなやかなので、足首も動かしやすいはず。

creative:RYOWAN INC.
photographer:SHIMPEI SUZUKI

−− ソールは薄型なのにクッション性があります。

山﨑 衝撃を吸収するEVAミッドソールを内蔵していますから。また、アッパーにはインビスタ社の「CORDURA fabrics」を採用しています。軽いだけでなく、引き裂きや摩擦にも強いので、枝や笹をかき分けて進む藪漕ぎの際にも安心です。側面にはシームレス構造のサイドフォールを配し、排水孔を設ける事で排水性も高めています。

−− 前編で紹介した「FOGLER GORE-TEX」と同じく、デザインもスタイリッシュです。

山﨑 デザインはミリタリーブーツをイメージしています。また、渓流釣りをする人は派手な色使いを好まない傾向があるので、このモデルも自然に溶け込むようシックな色使いを心がけました。さすがにタウンユースは難しいですが(笑)。

−− 今回、DAIWAのフィッシングシューズを見せていただきましたが、釣り用の靴とは思えないほどスタイリッシュでした。今後、シューズをきっかけに、釣りに興味を持つ人も増えていくのでは?

山﨑 ありがとうございます。DAIWAの目標は、釣りを誰もが楽しめる“ライフタイムスポーツ”にすること。そのためにライフスタイルと一体化したさまざまな提案を行っているのですが、そのうえでデザイン性は重要な鍵となると考えています。
とはいえ、あくまでフィッシングシューズはギアですから、第一義は機能性。フィッシングで培ったテクノロジーが本来のパフォーマンスを発揮できるかどうかは、地面に接するソールにかかっています。今後、DAIWAのフィッシングシューズが進化を遂げていくうえで、ヴィブラムはかけがえのないパートナーとなるでしょう。
ダイワ

日本を代表するフィッシングブランド。1958年にDAIWAの前身となる大和精工株式会社が創業し、リール製造を開始。その後、アウトスプール型リールや高純度カーボンといった画期的なギアやテクノロジーを次々と生み出す。2009年に社名をグローブライド株式会社へ変更。近年はアパレルラインの「DAIWA PIER39」や「DAIWA LIFESTYLE」を展開するなど、ファッションシーンでも注目を集める。

Text by 押条良太(押条事務所)
Photo by 前田一樹*インタビューカット撮影