古いヴィンテージシューズのソールを ヴィブラムに貼り替えて履いています。
DJ、プロデューサーとしての活躍もさることながら、食、ファッション、時計、車、アート、文学など幅広い分野への興味は止まるところを知らない田中知之さん。中でもヴィンテージ・ウェアのコレクションは有名です。それも見て楽しむのではなく、自ら着て、履いて楽しんでいらっしゃいます。お話はそんなヴィンテージシューズのことから始まりました。
−− ヴィブラムというソールに対してのインタビューをさせていただきたいと思いますが、田中さんはどんな形でヴィブラムとお付き合いをされていますか?
田中知之さん(以下「田中」と略す) まずはソールのお話からさせていただきます。古着が好きなのですが、古い靴、いわゆるヴィンテージシューズも好きですね。ビンテージの靴を見るとき、靴底には注目しています。ヴィブラムではないのですが、アメリカで電線を張ったりする人の、ラインマンというみたいですが、その人たち用の靴があって、靴底がケーブルの束ねたウネウネの柄がソールの型になっているものをデッドストックで見つけたことがありまして、面白いものを作るな、と思いました。そのケーブルの柄が滑り止めにもなっているっていう珍品でした。靴好きにとって、ソールの楽しみってありますよね。ヴィブラムに関していえば、ぼくも家にたくさんあるはずなのですが、靴そのものがたくさんありすぎて見つからない(笑)。多分箱に入っていて、積み上げているのだと思います(笑)。ビンテージの靴を買ったとき革底はまだそのまま履けますが、プラスチックソールという珍品もあって、滑って履けないわけです。今持っているものの中にもフェルトのボディで底がつるつるの合成皮革になっている1960年代くらいのブーツがあるのですが、もう、滑って滑って履けたものではありません。危なくて。それで自分でヴィブラムに張り替えました。
−− ご、ご自身で、ですか?
田中 修理屋に持っていってですよ!(笑)それでも、ヴィブラムを貼りたいと思い、オーダーして貼り替えました。こうした加工はめちゃくちゃやっています! 革底の靴もおしゃれでいいですが、絶対に滑りますし、靴底が傷みますよね。擦り減ったら、敢えてヴィブラムの薄いソールを貼ります。ビンテージの靴を履くときなんてヴィブラムさまさまですよ。さっきの合成皮革なんてスケート靴かっていうくらい滑りましたから(笑)。
60年代のフェルト製ブーツ。靴底は合皮だったが、現在はヴィブラムチューン済み。
−− (インタビューの日はその靴が見つからなかったので、拝見しながらはお話を伺えませんでした。後日撮影させていただきました)合皮ソールって、ラグ(靴底の凸凹)はあるのですか?
田中 いやいや、ツルッツルですよ。革底の革が合皮になった、つまり樹脂のソールです。スケート靴並みに滑りますよ(笑)。滑るための靴じゃないか? というくらい(笑)。
−− 確かに今でも樹脂製の革底の靴はありますね。革の代用品ですよね。
田中 その代用品がビンテージになるとレアだから、価値があるものになるわけです。
−− 観賞用になってしまうわけですか? でも、わざわざヴィブラムに貼り替えてくださっているのですものね?
田中 普通は観賞用になるのでしょうけれど、ぼくは履きたくて。それでヴィブラムに貼り替えて、普段履きできるようにしました。ヴィブラムってありがたいですね。そこで思うのですが、ヴィブラムってブランドですよね。そこがすごい! だって、ソールの専門ですよ。それがブランドになるってすごいじゃないですか! イタリアの登山家の方が始めた歴史も含めて、結局、材料や部品ではなくて、ブランドですから! ヴィブラムに似せたものもがあるわけですけれど、黄色のロゴがあるだけで「良い」ってなりますよね。
−− ありがとうございます! そんな風に思ってくださる田中さんがヴィブラムを意識したきっかけはありますか?
田中 雑誌「POPEYE」などでMA-1やリーバイスを知るような感じで、ヴィブラムもありましたね。しかも靴底の形状ではなく、ブランドなのだ、という意識は強かったです。黄色いロゴがあると本物、それ以外は偽物、という感覚です。今回の取材を機にヴィブラムを再認識するようになったので、古着、古靴好きとしてはビンテージのヴィブラムを探してみたくなります。このソール、古いヴィブラムで良いな、とか。
−− ショールームには昔のソールのレプリカはあります。そういう意味ではソールの専門という歴史もありますから探せば出てくるかもしれませんね。
田中 ヴィブラムのインパクトは大したものです。靴底でこれだけのインパクトのあるブランドはなかなかないですよね。Drマーチンのエアークッション(バウンシングソール)やナイキのエアは有名ですが、シューズありきで他社への供給はしませんからね。その点ヴィブラムは、ソールだけで他社ブランドの足の底を守る稀なブランドです。他社じゃなくても靴の修理屋にあって、あるだけでも安心する。魔法にかかった感じがするじゃないですか? とにかく滑りにくいという。ファッションにおいて特殊な立ち位置ですよね。本物感は他に類を見ない気がします。パーツなのにブランド感があるって珍しいですよね。
−− 靴底は見えないものだけにコミュニケーションはしづらい部分もあるのですが。
田中 服好きな人はヴィブラムのことはわかっているから大丈夫ですよ。ブランドの上に絶対的な信頼がありますから。
ビンテージのフェルトのブーツの靴底をヴィブラムソールに変えて履くという、新しいアプローチ。古着好きではなくても参考になるお話を伺えました。次回はマニアックなソールの機能に関してのお話です。
田中知之FPM DJ / プロデューサー
1966年7月6日生まれ。京都市出身。
1995年にピチカート・ファイブのアルバム『ロマンチック’96』で自身のソロ・プロジェクトFantastic Plastic Machine=FPM 名義の楽曲「ジェット機のハウス」が収録されメジャーデビュー。97年に1stアルバム『The Fantastic Plastic Machine』をリリース。計8枚のアルバムをリリース。アーティストへの楽曲プロデュースも多数。また、FATBOY SLIM、布袋寅泰、東京スカパラダイスオーケストラ、UNICORN、くるり、サカナクションなど100曲以上の作品をリミックスしている。食やファッション、時計、車、アート、文学などへの造詣も深く、特にヴィンテージ・ウェアのコレクター/マニアとして知られる。雑誌編集者の経験を活かし、新聞、雑誌への寄稿も多数。
Text by 北原 徹
Photo by 北原 徹