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消費の形やライフスタイルを考え直す機会に

繊研新聞社 編集局記者 シューズ担当
須田 渉美
Nov 29, 2023
消費の形やライフスタイルを考え直す機会に
 靴の取材に携わって10年以上になりますが、特にこの5年ぐらいでプロダクトデザインの視点が大きく変わりました。かつては、アッパーの装飾性やヒールの形がいかに目を引くものであるか、そこに作り手が知恵と工夫を凝らし、付加価値を高めることで売れていた側面があります。今は、見た目以上に履き心地の良さが問われる時代です。ソールやインソールの機能も含めたデザイン設計が商品の価値を左右しています。
 そういった中で、ヴィブラムのソールを目にする機会は増えました。取材でヴィブラムジャパンのショールームを訪ね、ゴムのコンパウンドに応じた開発力に感服しましたが、それだけではありません。ユーザーの個性を尊重し、一緒に新しい価値を作ろうとする姿勢に改めて魅了されています。
 例えば、フットベッドとアウトソールがセットになった「VIBRAM COMPONENT(ヴィブラムコンポーネント)」というプロダクトがあります。アッパーの素材と紐を用意すれば、手作業でフットウェアを作れるDIYの要素を持ったものです。靴は生産工程が決まっていて、イレギュラーな創作をすることが一般的には難しいのですが、ヴィブラムに「私たちの機能をどう生かすかはあなた次第」と問いかけられている気持ちになりました。
 ヴィブラムのソールに張り替える修理のカスタマイズは、さらに心に響くものでした。三越日本橋本店や渋谷パルコに専門の修理店があり、まさに持続可能なファッションを実感するサービスと言えるでしょう。私自身、7~8年前に購入してソールのゴムが劣化していたエンジニアブーツを再生してもらいました。修理担当者と、どのソールにするか、軽さや形状のバランスを考えて選ぶ過程は一消費者として楽しかったですし、軽やかな履き心地とともにモダンな姿に生まれ変わって感激しました。
 今の消費社会は、ものが溢れて過ぎて、新しいものを買う必要があるのか、多くの人が自問していると思います。使えるものを捨てることに罪悪感も生じますし。買い替えなくても、心地良さや機能、スタイルをアップデートできるヴィブラムのソールは時代が求めるニーズにマッチしてきているのではないでしょうか。自宅に保管したまま、流行から外れて履けなかった革靴もモダナイズできますし、両親が使っていた思い出の靴を子供に引き継ぐことも可能です。人それぞれに、豊かさを感じるライフスタイルをデザインするような選択肢に明るい未来を感じています。
須田 渉美 繊研新聞社 編集局記者 シューズ担当