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定番原理主義者もナットクの‟底力”

Begin クリエイティブディレクター
光木拓也
COLUMNJul 26, 2024
定番原理主義者もナットクの‟底力”
“定番原理主義”――。ベーシックをこよなく愛するモノ好きが継続的に持っている思想上の立場。ポジな表現として、勝手にこう呼んでいる。かくいう私も定番原理主義者の一味だ。そんなモノ好きが持つ一定の主張といえば、“変わらない”という美学。「もうこの〇〇は10年使っていてさ~」とか「この〇〇はまだアメリカ製の頃のモノでさ~」なーんて、長くモノを愛すという行為にたまらなく悦びを感じ、またモノの起源を理解していることに優越感を覚える。10年選手、一生モノ、永世定番……言葉をちょっと変えしながらも、ずっと持続可能をライフワークとしてきた身としては、“サスティナブル”と世が騒ぎ始めた昨今、 何?今さら??(笑)という感じなのであーる。そんな私にとって“当たり前”の理念の象徴といえば、クラークスオリジナルズのワラビーブーツ。もう30年以上付き合う“変わらない”愛すべきヤツだ。
写真は高校時代に買った“マイファーストワラビー”。前職のモノ・マガジン時代に、愛用ワラビーが故郷に帰るという企画でクラークスの本国取材を敢行。その際に、出発前のゲートで押さえた一枚だ。ヴァージンアトランティック航空の尾翼が何とも懐かしい。クラークスのソールと言えば、クレープソール。柔らか~なゴムソールだから、レザーソールのようにコツコツと音を立てることなく“夜這い”ができる(笑)。だから英国ではクレープソールのシューズを“プレイボーイシューズ”と呼ぶというのは紛れもない事実。
室内でも靴を脱がない文化が生んだ、何とも彼の国らしいストーリーが垣間見えるのも一興。まさにこれぞ“底上手”である(笑)。 
足入れしたときの感触はとにかくヤミツキになる。デニムにスラックス、軍パンにスウェットパンツまで、男の基本パンツを全方位カバーする脅威の汎用性はピカイチでね、海外出張には必ずクラークスを履いて出かける、石畳との相性も抜群にいいしね。スエードアッパーにクレープソールのスタイルはずっと変わらない、変わってほしくない。たとえ履き潰しても、同じモノがいつでも買える。
−− そんな変わらないヤツが突如変わった。
今から7年くらい前かな~、全天候型、要は防水仕様にクラークスがアップデートする際、アッパーにゴアテックス、そしてソールにはヴィブラムソールが採用された。長~く愛してきたあのクレープソールが消えたのだ……。雨の日にでも履けること&名作に名ソールが搭載されることに悦を覚えるも、あのソフトな感触が失われてしまうと思うと……(涙)。
−− でもね、足を入れてみると……
表はカリカリ、中はフワフワな行列のできるメロンパンのような、なんとも言えない履き心地♪ クラークスとヴィブラムがタッグを組んで開発したシン・ソールは、真骨頂であるソフトな感触はそのままにグリップ感が高まって、MORE!強靭な足回りに。雨の日にツルっと滑って、あぶね~‼ というのも愛嬌ね、な~んて許してしまっていたクレープソールの難点も、見事に解消してくれたのでした♪
ヴィブラムのソールといえば、おのずと知れた世界を代表するソールメーカー。裏返したときにオーラを放つイエローロゴは、リーバイスの赤タブのような絶対的な安心感があり、定番原理主義者にとっては印籠のようなもの。
ダナーに搭載された#148やレッドウィングの♯4014など、名靴に名底アリ!な最高のマリアージュだ。モノ好きはヴィブラムの名ソールを品番で語るもんね。ニューバランスの♯1300や♯576もそうだけど、オールデンでいえば#990、JMウェストンなら#180……etc.といったように、モデルや木型、カラーを品番で覚え、記号として語られるって名作の証。
 ソールだけで語られているモノといえば、ドットの突起の“ダイナイトソール”、波形の溝を入れた“スペリーソール”があるけれど、“ヴィブラムソール”はさまざまな素材、形状を開発し、名作靴を進化させる名脇役としてずっと機能している。そこが№1ソールブランドとして君臨し続けている所以だろう。
 
今日もモノ好きが集まる編集部は、さまざまな品番やモデル名が会話で飛び交っている。入社3年目、弱冠25歳にしてリペアのスぺシャリストが、ヴィブラムの#2060と#2021の違いについて熱く語っている。そんな若手編集者の声に耳を傾けていると、やはりヴィブラムはいつの時代も“底力”があるんだなぁ、と改めて痛感してしまうのだった。
光木拓也 Begin クリエイティブディレクター

1977年生まれ。ワールドフォトプレス『monoマガジン』編集部を経て2006年に世界文化社(現・世界文化ホールディングス)入社。以来『Begin』一筋で主にファッションを担当し、2017年~2021年まで10代目Begin編集長。現在はメディアをまたいで新規事業開発に注力。ジャンル別に100の傑作品をギュッとまとめた『100 BASICS』シリーズの編集長も務める。