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自分のスペックが試される
ホンモノとの対峙の仕方

Forbes Japan ファッションディレクター/
OCEANS アドバイザー
島田 明
COLUMNMay 17, 2023
自分のスペックが試される ホンモノとの対峙の仕方
モノは使い倒す性分だと自分では思っている。その最たる例が車だ。学生時代に初めて買ったFIATのアウトビアンキという小型車を皮切りに、いろいろな車を「下駄代わり」に乗り倒してきた。今乗っているメルセデスのゲレンデヴァーゲン、通称Gも約20年に渡り4台乗り継ぎ、いづれのGも10万キロをゆうに超えた。ディラーからは「日本で、そこまで距離を出す人はいませんよ」と買い替えを勧める営業マンの常套句を言われ続けてきた。
私がGという車に辿り着いたのが、30年近く続けている趣味のフライフィッシングが理由でもある。人里離れた山奥深き渓流に分け入るためにはタフな車でなければならない。昔、サーブ900に乗って、岐阜の山奥で故障した時は本当に酷い目にあった。その経験から、Gという結論に行き着いたのだ。
この車と同列の選びの基準で語れるのが靴だ。なかでもVibramのアウトソールを装備した靴は、私のGの選択理由に限りなく近い。雨が降ろうが、雪が積もろうがガンガン攻められる。台風などは逆に心躍ったりするくらい。どんな状況にも対応でえきることはすなわち安心感にもつながるのだが、それは、あの岐阜の山奥で経験した苦い思い出からの教訓でもある。信頼できるモノであるか。過酷な状況下であればあるほど、そこが重要なわけで、だからこそフライフィッシングで山奥に向かう時には、この2つのギアに加え、古着のM65、TUDERの時計を身につけるのが現在の習慣となっている。
GもVibramのアウトソールを備えた靴も、いくらスペックやウンチクを頭に入れたとしても、それを所有し、使い倒した経験には敵わない。ロクに使ってもいないのに、少ない経験のなかから知たり顔でウンチクを語る男に今までも数限りなく出会ってきたが、そんな輩を冷ややかな目で観察しながら、そういう大人にだけは決してなるまい、と若い頃から心に誓ったりもしてきた。
モノの持つ本質を理解し、その本領を発揮させるには、やはり使い手のリアルな行動と実力次第。それはGもVibramも同じだ。自分のスペックが否応なしに試される。ホンモノの持つスペックを引き出し、使いこなすだけの自分になれているかどうか。自分が嫌う、あのウンチク野郎になっていないかどうか、用心深く己を点検しなければならない。
島田 明 Forbes Japan ファッションディレクター/
OCEANS アドバイザー

1963年東京生まれ。雑誌メンズクラブから編集者としてキャリアをスタートした後、LEONの編集長代理、ESQUIRE日本版やGOETHEのファッションディレクターを歴任。現在、ForbesJAPANのファッションディレクター、OCEANSのアドバイザーを務める。同時にZEGNAのアドバイザーなどコンサルタントを手がける編集舎を主宰。