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日本初 ヴィブラム認定工場

ナカダ商会

COBBLERSAug 30, 2023
日本初 ヴィブラム認定工場
日本で最初にヴィブラム認定工場となった工房、それが今回お話を伺った「ナカダ商会」です。特に登山靴やクライミングシューズという専門分野に強く、その技術を存分に使い、街で履くシューズやスニーカーまでリペア。職人気質なスタッフが一足一足を大切にリペアしていました。まさに紆余曲折、それがナカダ商会の「今」をつくっていました。
日本中の登山愛好家やクライマーから絶大なる信頼を得て、人気ブランドのブーツや革靴、スニーカーに至るまで、日々多くのシューズのリペアをこなすナカダ商会。今回はナカダ商会代表取締役中田好紀さん、そして、職人さんからの声を聞きました。
−− 日本で初めてのヴィブラム社認定工場ですね。
中田好紀さん(以下「中田」と略) 日本で初めてですし、その後もこの認定をもらった会社はないと聞いています。RESH.さんは別のカテゴリーで、ドレスなどをはじめ、ヴィブラムしか使わないという「ダイヤモンド」の認定です。私たちはマウンテンやアウトドア、クライミング系をメインにやっています。
−− 人気のシューズリペア、ソールリペアの工房として、東京に受付だけでもあると良いのでは?と思ったのですが。
中田 実際にそういうお店を開こうとしたのですが、ウェブが発達している社会だったら、ここで工場を構えて(埼玉県川口市、最寄は草加駅)、素晴らしい仕事をして、ネットから集客したほうが効率的だと思いました。
−− ナカダ商会さんが現在ヴィブラム社から認定されるほどのソールリペアの道を歩むまでの道のりをお聞かせください。
中田 シューズ周りをする会社として代々やってきました。私の祖父が1960年にサンダルの製作、販売をする会社を立ち上げて、父が引き継いでソールを加工して販売する、ソール加工業に変えました。バブルの頃はゴルフシューズが非常に売れていたので、そのメーカーさんにソールを売っていましたね。その頃は従業員も多かったのですが、その後バブル崩壊があり、靴業界自体が低迷していきました。結果的に注文数も減りました。どうしようかと悩んでいる父に、当時人気だったレッドウイングの修理をしている知人がいて、その方の誘いでレッドウイングの修理を受けることになりました。そこで父はうちの職人さんにレッドウイングの修理をしているところで修行をさせて、靴修理業を覚えてきたのです。私が大学3年のころでしたね。
−− それで卒業と同時に継がれたという感じだったのでしょうか?
中田 いえ、大学卒業後はまず、飲食の会社に勤めました。その後医療系の営業に7年間いました。その間細々でしたが、ナカダ商会は続けてくれていました。靴修理業と加工業、半々くらいですかね。ただ、このころは赤字だったのです。ですが、修理という分野に光が見えていました。父からも「修理はこれから伸びると思うよ」といわれました。それで私もこの仕事を考えるようになりました。26〜7歳でしたね。そのとき、父と母に「会社に入っても良いかな」って聞いたら、「30くらいになったら入れば」といわれ、29歳のときに会社を辞めて、入りました。職人も3人くらいでした。まずはホームページを立ち上げました。そして、修理のノウハウはありましたから、営業して回りました。これはメーカーさんとのお取引ができるようにしたかったからです。ダナーとかチペワとかに何度も通って修理をさせてほしいといいました。すぐに話はこなかったのですが、2年後くらいですかね、向こうから電話が来て、チペワ、ダナーも修理を受けるようになりました。アウトドア系の修理に関しては私が入る前に「キャラバン」の修理を受けていました。その「キャラバン」の仕事の口コミからいろんなメーカーの修理の話が来るようになりました。いわゆるB to Bです。

お話を伺った「ナカダ商会」代表取締役社長の中田好紀さん。元医療関係の営業だったスキルを活かして会社を伸ばしています。

−− 確かに光が見えてきましたね!
中田 その後、一般のお店さんからもお声をかけていただき、ホームページから個人のお客さまからのオーダーも来始めました。そして2年前にホームページのリニューアルをして、個人のお客さまからのオーダーが爆発的に伸びた、という感じです。
−− とても素敵な成長物語というか、テレビ番組もつくれますね! 営業をやっていらしたのも活かされていますね。職人的に入っていたら、営業という視点がなかったわけですよね!
中田 私は修理の手順やノウハウはわかってはいますが、実際に手を使って修理することはやりませんし、できません。職人さんはうちの宝です。私が営業して仕事をいただいてきても、修理する職人さんがいなければ、できません。この線引きが大切なのだと思っています。もちろん、私は社長ですが、職人さんには敬語で話します。
−− 職人さんたちもとても優しくて、作業を拝見していて、お声かけると手が止まってしまうと思っていると職人さんから「こんにちは」と声をかけてくださるのが印象的でした。
中田 うちは職人さんには本当に恵まれていると思います。ホームページでも職人さんを募集しているのですが、それを見て来てくださったり、履歴書を送ってくれて、今の職人さんもそうやって集まっています。
−− 若い人も来るのですか?
中田 若い人が多いですよ。
−− 若い人は技術を学んだら、独立してしまうと教えたのが逆に不利益になったりしそうですが。
中田 ここで修行して、技術を学んで独立してくれるようにしたいと思っています。今はナカダ商会で頑張ってほしいと思っていますが、将来的には独立まで視野に入れた会社にしていきたいのです。というのはイタリアに比べて、日本は修理屋が少ないということがあります。イタリアではヴィブラム社の認定を持っている家族もたくさんいらっしゃいますが、日本では私たちとその上をいくRESH.さんだけですから、その後継も必要だと思っています。修理屋さんが全国にあれば、「靴修理」自体の認知が広がります。ものを大事にする人も増えると思います。
−− シューズの場合、ソールは劣化しますが、アッパーはそこまで劣化しませんからね。タイヤと同じように考えてくれれば、良いですよね。
中田 そうなればもっと広がっていく業種なのだと思います。ヴィブラムの認知度を上げることによって、ソールのリペアや靴修理を知らない人にも修理を普通に感じてもらえればと思います。
倉庫には所狭しと「ヴィブラム」のさまざまなコンパウンドのソールが積まれていました。
−− ヴィブラムとのお付き合いはいつ頃からどういう形で始まったのですか?
中田 私が入ったときにはすでに修理部材としては使っていました。それ以前にソール加工をしていたときにメーカーさんからヴィブラムの指定があって、問屋さんからヴィブラムを入荷して、それに加工をかけて出荷していました。ですが、修理の部品のラインナップとしてはありません。ヴィブラムは種類も豊富です。ヴィブラムがあれば、修理の認知が広がると思いましたし、登山メーカーなどはほとんどがヴィブラムだったので、ヴィブラムでソールが貼り替えられます、といえば必ずこの業種は広がると確信がありました。
−− 修理にもブランドがあるというのは大切な視点だと思います。
中田 それでヴィブラムを使えるようにしていきました。展示会にも足を運んでいるうちにヴィブラムジャパンの眞田さんにもお目にかかれて、修理をしているので、工場にも来てくださいという感じからしっかりとお付き合いさせていただいています。2015年にイタリアに行ったときにも、眞田さんからのお誘いでした。ヴィブラムの本社を見せていただき、靴の工場が多いモンテベルーナの街にヴィブラムの現地スタッフと共に行きました。そこに有名な修理工場があり、規模も大きく、最新の設備が揃っていて、修理もラインで作業。すでにクライミングシューズの修理もしていました。日本でもクライミングシューズの修理をしたら、需要はあると思いました。
−− 2000年代から登山人口が急に増えていましたね。
中田 年配の方が増えましたね。そのときの登山靴が加水分解してしまうので、修理も同時に増えたのです。
−− そうこうしているうちにヴィブラムの認定を受けるわけですね。
中田 2017年に再度イタリアに行きます。うちの職人をふたり連れて、シューズリペアの研修をさせていただくのが目的でした。そこでクライミングシューズの修理とソールのリペアの仕方をヴィブラムで教えてもらいました。それを日本に持ち帰って、徐々に広めていきました。その結果、ヴィブラム認定工場の認定を受けられました。
−− ヴィブラムからダイレクトで学ばれたのですね。
中田 日本ではライバルになる企業しかやっていなかったので、修行をさせていただくわけにいかなかったのです。それで眞田社長にお願いしてヴィブラム本社で学ばせていただきました。イタリアでは3日間「ヴィブラムカー」(※現在は新型になっているそうです)といわれるトレーラーの中で3日間、学んで習得してきました。
−− ヴィブラムカーというのは、街に出向いてソールのリペアをするようなこともしているのですか?
中田 ヴィブラムの製品をPRするためにヨーロッパの街を転々とするための大型のトラックです。中では人が自由に動けるくらいの広さがあります。ヨーロッパではトレイルランニングが主流なので、そういう大会があるとヴィブラムカーも向かって、選手たちにトレイルランニングのソールを紹介して、その場で交換するというわけです。面白いですよ。
−− 黄色ですか? ヴィブラムカーは?
中田 そうですね。黄色と黒がメインカラーです。ヴィブラムカーを見たり、イタリアのヴィブラム社を見たりしながら、このヴィブラムカーを日本でもやりたいと思いました。トレーラーの中で「MEGAGRIP」や「ARCTIC GRIP」のグリップ力の体験コーナーを設置して、実際の商品を置くというのは本当にやってみたいです。
−− 工場を拝見すると、クライミングシューズのリペアの依頼がかなりきていましたね。
中田 うちの強みだと思います。クライミングシューズは特殊で、ただソールを張り替えれば良いわけではなく、ラスト(靴の木型)を持っていないとできません。つま先から踵までが「く」の字に曲がっているので。この木型をイタリアから輸入している工場は少ないと思います。特に「F社」に関しては、日本ではうちだけが持っているものです。

イタリアで使用している修理用のラスト(木型)。

日本で唯一の「F社」のラスト。

−− 独占企業ですね!
中田 ニッチな業界なので、やれることをやるという感じです。うちの職人さんのうち2人はクライミングをやっています。だから、修理に出された靴を見て、この人にはこんなことをしてあげたら、もっと履き心地や使い勝手が良くなるのでは、と思って作業するといっていました。自分が使う側でもあるから、使い手のことがわかるのでしょうね。
−− 痒い所に手が届く、ということですね。
中田 そうなのだと思います。こうしたユーザーひとりひとりに寄り添うことができるのもうちの強みだと思っています。今後うちで広げたいと思っているのが、ヴィブラムの一足からオーダーできるシステムです。サンプルを見ながらお客様と一緒のオーダーを受けるということもやっていきたいです。ヴィブラムのソールは種類が豊富なため、ミッドソールの色もアウトソールの色も選べる、自分だけのカスタムができます。
−− サンプルを見ながら、色はこういうのが良いですね、という会話をしながらオーダーできるわけですね。自分の靴が修理だけでなく、より良くなることも含めて今まで履いてきた靴が第二の人生を迎えられるわけですよね。
中田 イタリアの「スポルティバ」はリソールを積極的に進めていますね。SDGsの流れもありますが、もともとイタリアではシューズリペアは当たり前でしたからね。
−− お話を伺っていて、中田さんが営業だったということは改めて大きいと思いました。業界をなるべく俯瞰から見ようとする力。職人は手元を見ることが大切です。その役割分担がきちんとできていることを感じます。
中田 営業に徹することが大事だと思います。だからこそ職人さんを大切にできるのだと思います。それがうちの仕事のクオリティを上げるということにつながりますから。
−− 夢というか、中田さんだからやるこのシューズリペアの未来ってありますか?
中田 ぼくの将来的なビジョンはこうしたショップでのソールのリペアと、珈琲が好きなので、珈琲ショップと一緒にしたお店をしたいと思っています。
−− お話、とても面白かったです。ありがとうございました。この後、職人さんの声も拾わせてください。
中田 ありがとうございました。よろしくお願い申し上げます。
職人さんの声も聞いて来ました。

登山靴・ワークブーツ・クライミング・お客様受付担当の永野 宙さん。イタリアのヴィブラム社で修行された職人のひとりです。

職人さんたちも楽しく仕事をされていました。何よりも感じたのが「靴」そのものが好きな人が職人さんをされている、ということでした。永野 宙(ナガノヒロシ)さんは大学卒業後アパレル企業に就職したが、靴磨きの本を読み、自分が好きだったのは「靴」だと感じたそうです。では、なぜ、靴をデザインしたり、生産する会社を選ばなかったのでしょうか?
「世の中には数限りなく、完成形として素晴らしい靴が存在しています。それを超える靴をつくるということが現実的なのか、と考えると同時に、「修理」という業態はこうした「素晴らしい靴」を蘇らせることができるし、履いている方により長く履いてもらうことができると思ったのです。大切に使ってもらうことを思いながら、使い捨ては良くないと思っていますし、修理して長く履いてもらったほうが愛着も湧きますから。修理できるものは修理して履いてもらいたいです」

紳士靴・ワークブーツ・登山担当・お客様受付担当の鈴木 伸明さん。靴好きならではの職人さんです。

もうひとりの職人さんも靴そのものが好きな方。鈴木 伸明(スズキノブアキ)さんです。
「靴が好きで靴の学校に行きました。そこで1年間靴づくりを学んで。いろんな靴の構造とかも見たいと思いこの業界に興味を持ちましたいろんなメーカーや職人さんの靴づくりが一番見られると思い、ここに来ました」
なるほど、靴の構造を見たいのであれば、靴そのものをつくることより、修理工場にはたくさんの種類の靴が集まります。将来は靴づくりを始めるのでしょうか?
「現実的には難しいと思いますが、希望としては靴をつくってみたいですね。情報もいろいろ入ってきますが、一足をハンドソーでつくるとなると1ヶ月以上かかりますからね。それだったら修理できないものを修理できるようにしたいですね」
ある程度を越えたところは靴づくりという域にまで行きそうですね。
「スニーカーはバラしたら、もはや靴づくりです。やったことのない作業も積極的にできますし、修理できないと思われていたものを修理できるようにするのも良いと思っています」
ナカダ商会

「靴修理大好き工房」を別名に靴修理全般を扱う。中でも登山靴は専門分野としてメーカーからもユーザーからも信頼を得ている。登山靴という靴の中でもトップレベルに難しい分野の修理ができるからこそ、一般の靴も秀逸に修理することができる。また、ソール交換に関しては日本初の「ヴィブラムプレミアムコブラー」認定を授かり、ヴィブラム認定工場となった。これは高い技術は本国からも認められたものだ。

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