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INTERVIEW 23
YUJI EMOTO
江本悠滋
国際山岳ガイド / アドベンチャーアスリート

Vol.1「すごい」より、「何も感じない」安心感。

Jan 16, 2026
「すごい」より、「何も感じない」安心感。

バックカントリースキーや登山、パラグライダーなど多様なアクティビティを横断しながら山と向き合う国際山岳ガイド・江本悠滋さん。2025年6月よりTEAM VIBRAMに加わったヴィブラムアスリートでもある彼に、足元を支えるソールの価値と次なる挑戦について話を聞きました。

山岳ガイドとして大切にしていること

――現在の拠点や活動スタイルについて教えてください。

江本
 主な拠点はフランスのアヌシーと、日本の白馬。1年のうち約7割をアヌシー、約3割を白馬で過ごしています。冬はバックカントリーがほとんどで、残りは冬山やそのときどきのお客さんに合わせたハイキングやクライミングです。年末から3月頭くらいまではスキーがメインで、その後はヨーロッパでツアースキーが始まり、季節が進むと登山の比重が上がっていきます。
――国際山岳ガイドとして活動するうえで、根底にある思いや価値観は何でしょうか?

江本 僕が大切にしているのは、その日、その人、そのコンディションにとって、いちばん楽しい選択肢を見つけること。同じ場所、同じアクティビティが、いつも正解とは限りません。天候や雪の状態、その人の技量や気分によって、いちばん楽しめる場所は毎日違いますから。

――登山、スキー、パラグライダーと、複数のアクティビティを横断しているのも、そうした考えからですか?

江本 そうですね。お客さんは最初、「この山に登りたい」という目的を持って来られることが多いです。でもいっしょに時間を過ごしていくと、歩くのが好きなのか、クライミングが好きなのか、景色を楽しみたいのかが見えてくる。そうなったときに、「今日はこっちのほうが楽しいですよ」と提案できる。それが、僕のガイドとしての役割だと思っています。

レストランで言えば、コース料理ではなく“おまかせ”。この人にお願いすれば、今日いちばん面白い遊び方を提案してくれる。そう思ってもらえる関係でいたいです。今日は山に行かないほうがいい日もありますし、少し場所を変えたほうが楽しいこともありますから。
――その考え方は、「地球と遊ぶ」というご自身のモットーにも通じていますね。

江本 そうだと思います。自然を攻略するというよりも、その日の地球のコンディションに耳を澄ませて、どう付き合うかを考える。そのためには、選択肢が多いことが大事ですし、それを支えてくれる足元や装備の信頼性も欠かせません。だからこそ、当たり前の安心感を大切にしています。

――江本さんが特に力を入れている「Hike & Fly」とは、どんなアクティビティですか?

江本 自らの足で山に登り、パラグライダーで飛ぶというスタイルです。山登りがメインで、山頂まで登って、そこから飛んで移動する。だから靴に求めるものも、基本は山を登るための性能になります。

「ソールメーカー」と組むことで、ギア選びの自由が増える

――ヴィブラムジャパンからアスリート契約の話を受けたとき、率直にどう感じましたか?

江本 大きく2つあって。ひとつは、海外ではサプライヤー、つまり素材メーカーがプロモーションや契約をするのはよく見ますが、日本ではまだ多くない。だから、日本でもようやく、国際的にサプライしているメーカーがそういう動きをしているんだな、と素直にうれしかったです。

もうひとつは、ヴィブラムってアウトドアをやっていると「使って当然」というか、ずっと使ってきた必然がある存在なんです。契約がある・ない以前に、選択肢として自然にそこにある。だから単純に「うれしい」という気持ちでした。
――シューズブランドではなく、ソールメーカーと組むことをどう捉えていますか?

江本 いまの時代、メーカーさんの領域がどんどん広がっていますよね。ギアメーカーがアパレルを始めたり、アパレルメーカーが靴を始めたり。そうなると、スポンサーによって全身が決まってしまうことも増える。昔みたいに「好きなものを、好きなところで」という選び方が、難しくなってきていると感じます。
その点、ソールメーカーと組めるのは、僕にとってすごくメリットが大きい。ヴィブラムであれば、シューズ自体は自分の用途に合わせて選びやすい。雪があるところもないところも、走る・歩く・滑る……全部やる自分にとって、この自由度は本当に魅力です。

――ユーザーとしてのヴィブラムとの出会いは覚えていますか?

江本 「ヴィブラムだから買った」という感覚は、正直あまりなくて。気づいたら山の靴は全部ヴィブラムだった、という感じです。

――いま使っているシューズも、すべてヴィブラムのソールですか?

江本 街の靴以外は、全部ヴィブラムです。バックカントリーのブーツから、トレイルの靴、アプローチ、アルパインの靴まで。状況に合わせて軽さや柔らかさも選びますが、足元は常に重要です。

当たり前を当たり前に提供してくれるのが信頼の証

――プロとして、シューズのソールに求める条件は何でしょう?

江本 僕が大事だと思うのは、絶対的な安心感です。滑らないとか、力が逃げないとか、ずれないとか。そういうことは「感じさせない」のが理想で、本来は起きてはいけないこと。普段なら滑らないはずなのに滑ったら、「あれ?」となって、そこで初めて何かが違うと気づく。
そういう“当たり前”を当たり前に提供してくれているのが、ヴィブラムだと感じています。すごいと感じるというより、何も感じさせないこと。それがいちばんの信頼かもしれないですね。

――現場でソールの力を実感したエピソードはありますか?

江本 たとえば冬山では、アイゼンを持っていても、できれば履きたくない。履くと疲れるし、一歩ごとに重さも効いてくる。でも、履かないと危険になるラインがあるので、その“ギリギリ”を見極める場面が多いんです。

そのとき、靴自体のサポートとソールがきちんとしていると、雪の上でも歩ける、氷でも歩ける、踏み固めた斜面でもいける、という判断がしやすくなる。もちろん技量や足の置き方も大きいですが、結局、地面との接点はそこだけ。車で言えばタイヤなので、ソールの力は大きいと感じます。
――ヴィブラムジャパンとのアスリート契約から半年。取り組みの中で感じた変化や気づきは?

江本 ヴィブラムはソールのメーカーなので、アウトドアでは「ほとんど使われている」という印象でした。でもいっしょに動くようになって、街の靴にもすごく浸透していることに気づきました。今まで気にしていなかったのに、つい見ちゃう(笑)。街でも雨の日や雪の日は安心につながるので、そういう広がりは面白いですよね。

ヴィブラムとともに、次の挑戦へ

――現在進めている挑戦、これからのプロジェクトについて教えてください。

江本 2年前、パラグライダーとハイクを融合させたアドベンチャーレース「Red Bull X-Alps」を完走し、そこで「自分の挑戦ごとをきちんとやりたいな」とあらためて思ったんです。そこから準備やトレーニングを続けてきて、終わってホッとしていたんですけど、また何か挑戦がしたくなってきた。
以前は8000m峰には今まであまり興味がありませんでした。お金も時間もかかるし、技量だけではなく、天候など不可欠な要素が多い。でも、パラグライダーを始めたことで、「登って飛ぶ」という新しい道が見えてきたんですよね。

K2については、2025年のチャレンジは山頂からパラグライダーで滑空して下山する構想でしたが、次回はアプローチ自体をパラグライダーで組み立てるプランを考えています。麓の村から飛んで山に入り、高所順応をしながら、空からピークを目指す。時期も、コンディションがあうタイミングを狙っていくことになります。そのときの足元はもちろん、ヴィブラムです。

――最後に、ヴィブラムアスリートとして今後伝えていきたいことは?

江本 日本ではひとつのカテゴリーに寄りがちで、ロードバイクの人はロードバイクだけ、トレイルランはトレイルランだけ、みたいにはっきり分かれやすい。でも、それってもったいないなと思うんです。自然も時間も環境もあるのに、「今日これができないからおしまい」じゃなくて、選択肢が増えれば楽しめるチャンスも増える。

足元は、いつでも地面との唯一の接点です。だからこそ、ヴィブラムのような、当たり前を支えてくれるものを味方にしながら、もっと自由に山を楽しんでほしいですね。
江本悠滋国際山岳ガイド / アドベンチャーアスリート

1976年生まれ。ヨーロッパアルプス、ヒマラヤ、日本アルプスなどでの登山やバックカントリーガイドを務めるほか、パラグライダーを組み合わせた人力縦断、山岳アドベンチャーにも挑戦。

Text by 榎本一生
Photo by Kuu kikuchi