記憶は曖昧だけど、大学生の頃だったと思う。ノストラダムスが予言したXデイがいよいよ迫っていた頃、つまり90年代後半だ。
セレクトショップなどで気になるスニーカーやブーツを手に取ると、ソールに八角形の黄色いタグを見かけるようになった。それは手にしているシューメーカーのものではなく、すべての靴に付いているわけでもない。何となく、選ばれたモノだけに付いている印象があった。
「このタグ、何だろう?」。気にはなったものの、今のようにインターネットで手軽に答えに辿り着ける時代でもなければ、ショップスタッフが優しい時代でもない。結局、調べることも「このタグ、何?」と誰かに聞くこともなかった。
それが「Vibram」のイエロータグだ。
今の仕事をするようになって間もなく、僕は「Vibram」のひとつの事実を知る。どうやら“すべりにくい”ソールらしい。なるほど、そういうことか。90年代後半の“カッコマン(←90年代重要用語のひとつ)”たちがこぞって履いていたのはレッドウィングなどのワークシューズや、アディダス「XTR」にメレル「ジャングルモック」といったアウトドア由来の靴だった。それらに“すべりにくい”は欠かせない機能。その証明となる「Vibram」のイエロータグは、カッコマンたちがデザイン重視で選んだ靴とともに、ファッションのトレンドに乗って市民権を得ていった。タグというビジュアルが先行して。
ビジュアル先行というのは、別に悪いことではない。思い返せば「GORE-TEX」だってそうだ。一般の服好きは、エクストリームな環境で過ごすためだけに「GORE-TEX」のアイテムを手にするわけではないだろうし、誤解を恐れずに言えば多くの人にとって、付いているとなんだか嬉しい“ある種の記号”でもあるはずだ。ビジュアルやデザインを通じて本質へと誘ってくれるのは、ファッションの偉大な力だと思う。
話を現代に戻そう。2022年の僕は「Vibram」ソールについてきちんと理解できているのだろうか。先日、Vibram日本支社代表、眞田くみ子さんに取材する機会をいただき、答えは出た。余裕で「NO」だった。タグが黄色い理由も、年間300型も新しいソールを開発していることも、そもそも“すべりにくい”だけが「Vibram」ソールの正義ではないことも知らなかった。また、いまだにアメリカブランドだと勘違いされやすい理由からは、「このタグ、何?」と聞けなかった当時の記憶の伏線回収までできてしまった。知れば知るほど沼だったよ、「Vibram」ソール。
ということで僕はまだ、「Vibram」のイエロータグを、付いているとなんだか嬉しい“ある種の記号”として捉えているのかもしれない。だって、知人のオフィスのエントランスにあったこれを、思わず撮ってしまうのだから。
出会ってから数十年、黄色いタグの魅力は、褪せるどころか鮮やかさを増していく。
セレクトショップなどで気になるスニーカーやブーツを手に取ると、ソールに八角形の黄色いタグを見かけるようになった。それは手にしているシューメーカーのものではなく、すべての靴に付いているわけでもない。何となく、選ばれたモノだけに付いている印象があった。
「このタグ、何だろう?」。気にはなったものの、今のようにインターネットで手軽に答えに辿り着ける時代でもなければ、ショップスタッフが優しい時代でもない。結局、調べることも「このタグ、何?」と誰かに聞くこともなかった。
それが「Vibram」のイエロータグだ。
今の仕事をするようになって間もなく、僕は「Vibram」のひとつの事実を知る。どうやら“すべりにくい”ソールらしい。なるほど、そういうことか。90年代後半の“カッコマン(←90年代重要用語のひとつ)”たちがこぞって履いていたのはレッドウィングなどのワークシューズや、アディダス「XTR」にメレル「ジャングルモック」といったアウトドア由来の靴だった。それらに“すべりにくい”は欠かせない機能。その証明となる「Vibram」のイエロータグは、カッコマンたちがデザイン重視で選んだ靴とともに、ファッションのトレンドに乗って市民権を得ていった。タグというビジュアルが先行して。
ビジュアル先行というのは、別に悪いことではない。思い返せば「GORE-TEX」だってそうだ。一般の服好きは、エクストリームな環境で過ごすためだけに「GORE-TEX」のアイテムを手にするわけではないだろうし、誤解を恐れずに言えば多くの人にとって、付いているとなんだか嬉しい“ある種の記号”でもあるはずだ。ビジュアルやデザインを通じて本質へと誘ってくれるのは、ファッションの偉大な力だと思う。
話を現代に戻そう。2022年の僕は「Vibram」ソールについてきちんと理解できているのだろうか。先日、Vibram日本支社代表、眞田くみ子さんに取材する機会をいただき、答えは出た。余裕で「NO」だった。タグが黄色い理由も、年間300型も新しいソールを開発していることも、そもそも“すべりにくい”だけが「Vibram」ソールの正義ではないことも知らなかった。また、いまだにアメリカブランドだと勘違いされやすい理由からは、「このタグ、何?」と聞けなかった当時の記憶の伏線回収までできてしまった。知れば知るほど沼だったよ、「Vibram」ソール。
ということで僕はまだ、「Vibram」のイエロータグを、付いているとなんだか嬉しい“ある種の記号”として捉えているのかもしれない。だって、知人のオフィスのエントランスにあったこれを、思わず撮ってしまうのだから。
出会ってから数十年、黄色いタグの魅力は、褪せるどころか鮮やかさを増していく。
原 亮太
OCEANS 統括編集長
OCEANS Web 編集長。’79年生まれ。愛知県出身。趣味はキャンプで、庭で“一坪畑”を実践中。好物の菊芋を収穫したばかり。