1.ヴィブラムの誕生物語
悲劇を乗り越えて、
発明が如く
ヴィブラムのアウトソールは
この世に誕生した。
ヴィブラムは靴底=ソールという人の目に触れにくい部分でありながら、独自の世界を築き上げ、唯一無二のアウトソールブランドにまで押し上げた。ヴィブラムのアウトソールの発明家であり、ヴィターレ・ブラマーニ(Vitale Bramani)によって創業された。その歴史は悲劇によって導かれたといっても過言ではない。
ヴィターレ・ブラマーニは1900年、イタリアのミラノ生まれ。父親が木工職人で、父親がつくってくれたスキー板を持って山にスキーに行くようになり、15歳になるころにミラノ山岳会に入会をするようになる。やがて山登りに明け暮れるようになる。趣味が高じてミラノのブランド街でもあるスピーガ通りに『ブラマーニ スポーツ』という登山用品店を開業する。ミラノの中心地に開いたショップには、登山の専門家、ヴィターレのもとに訪れる登山家は後を絶たなかったという。
1935年、ヴィターレが35歳のときに悲劇が起こる。スイスのヴァルブレガリアにある標高3305mの山、ブンタラシカをヴィターレと仲間6人と登山中、突然の天候変化が彼らを襲う。登山隊の7名中6名が命を落としてしまったのだ。当時の登山靴は靴底に鋲を打ったスパイク型の重たいアウトソールの靴だった。彼ら以外でも靴底の鋲が折れることが事故の原因にもなっていた。つまり、厳しい環境に対応できる靴がなかったのだ。ヴィターレは、この悲劇を繰り返すことないようにゴムのソール開発に着手する。このとき彼を助けてくれたのが、「ブラマーニ スポーツ」を開いたスピーガ通りで出会ったイタリアのタイヤメーカー「ピレリ(Pirelli)」だったそうだ。
彼が開発したソールは、冷たい雪の中でもアウトソールが硬化せず、滑りにくい、それまであった靴底に比べて〝革命〟と呼ぶにふさわしい逸品だったのだ。そこで生まれたものが、今でも登山靴のソールとして金字塔ともいえる、「カラルマート(CARRARMATO)」だった。日本では「タンク」「コマンドソール」などとも呼ばれ、後に世界中の人々の命を守りながらも、安心のアイコンとなる運命の発明であった。
この「カラルマート」の誕生、そしてヴィブラムの創業は1937年である。ちなみにブランド名「vibram」は創業者ヴィターレ ブラマーニの名前「Vitale Bramani」の名と姓の頭をとった「Vi」「Bram」からきている。
ヴィブラムが類稀なソールブランドとなる出来事が訪れる。それは1954年7月31日イタリア登山隊がK2(カラコルム山脈)登山遠征をし、初登頂に成功したことだった。このときヴィブラムは、山の標高に合わせた3タイプのソールを開発。低高度には「ヘラクレス」、中高度は「ロッチャ」、そして標高7,600メートル以上で使用する「モンターニャ」がそれだ。高度による環境の変化に対応したソールづくりが、前人未到の記録を残したのだった。標高8,611mのK2がヴィブラムというブランドの名声を押し上げたわけだ。
ブランドロゴはミラノの大聖堂「ドゥオモ」の左側に建設されたヴィットリオエマヌエーレ2世のアーケードの中央の交差点の八角形からきている。また、カラルマートのセンターに並ぶ十字のモチーフもこのアーケードのタイルで描かれた十字から発想を得ている。
現在ではソールブランドとして、年300種のソールを発表し、世界で1000を超えるシューズブランドにソールを供給し、およそ4000万足の足元を支えている。